ん十万円するロードバイクを買った友人が使わなくなったマウンテン・バイクをタダで譲ってくれた。 多摩川の川縁を自転車トレッキングするのに欲しいと思っていたので、とても嬉しかった。
ただ、ごついマウンテン・バイクをほんの少しカスタマイズして、マッチョの概観をおとなしくした。 ハンドルバーを10センチほど、ちょん切って、太くてゴツゴツしたタイヤを細身のものに替えた。 本格的なダウンヒルや山行をしないなら、これで十分だし、街中を軽快に走れる。
スマートでかっこいいが細くて硬いサドルも、乗り心地の良いママチャリ用のに替えたかったが、あのダサイ見かけのサドルが2、780円もしたので、とりあえずは現状で我慢することにした。
早速、トレッキングに出発。 土手の上のサイクリング・コースしか走れないロードバイクから、マウンテン・バイクに乗り替えて飛び込んだ草むらのサイクリングは、想像以上の面白さだった。
土手からは遠い水面が目の前にせまる。 草むらからムクドリが自転車に驚いて飛び立つ。 野糞をしている男の尻からは目をそむける。 思い切って背丈の高い草むらに自転車ごと突っ込んでみた。 ちょっとした子どもっぽい冒険。 自然の中を突っ走る爽快感。 土手を越えて水辺に近づくだけで、世界が一変するのだ。
それにしても、問題は、やはりサドルだった。 スピードを競うならサドルにまともに座ることはないが、お散歩トレッキングとなると、でこぼこ道でも尻をどっしりとサドルに載せてしまう。 これが続くと、結構しんどい。
尻が痛いのを我慢していたとき、河原の草むらのむこうに、まるで幻想のように、買いたいと思っていたママチャリのサドルがいくつも見えた。 ウソだろ?
近づいてみると、そこはホームレスのブルーハウスだった。 ポンコツの自転車が何台も放り出してある。 50がらみの男が一人立っていた。青ざめた顔色の高収入サラリーマンと違って、健康的に日焼けしていた。 声をかけてみた。
「自転車がたくさんあるけど、サドルだけひとつくれないかなあ?」 「自転車なんか、河原のあちこちに捨ててあるから、構わん。 これ、今、オレが使ってるやつだ。 持ってきな」
「ダメモトでとりあえず声をかけてみるもんだろ」と、こっちが言おうとしたセリフまで言ってくれた。
二子橋と丸子橋の中間あたりの東京側。
「このあたりで釣れる鯉は臭くないよ。身を薄く切って塩もみしたあと、よく洗う。それをかるく湯通ししたのをポン酢で食う。 今度は釣竿を持ってきな。釣り方教えてやるよ」 「いやー、ありがとう。 サドルをもらって、鯉の調理法まで教えてもらって」
マウンテン・バイクに乗ると、ホームレスの友達までできるのだ。 もらったサドルを装着してみると想像した通りの快適な乗り心地。
本当に、釣竿とお礼の焼酎でも持って、また、あのホームレスのところへ行ってみよう。
ただ、こういう話は面白がるヤツもいれば、生理的な嫌悪感を覚える潔癖症のヤツもいる。 話す相手は気を付けて選ぼう。
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