2009年10月9日金曜日

日本は南北朝鮮統一を支持しているのか?


 1990年代に日本で翻訳出版された韓国の近未来小説「北朝鮮崩壊」(鄭乙炳著・文芸春秋社)は、北朝鮮のクーデターで金正日独裁体制が倒れ、南との経済協力で破綻国家を建て直そうとする柔軟な思考の一派が実権を握る結末になっている。北朝鮮国内の混乱もなく、いわばハッピーエンドの小説といえる。

 敵対する南北朝鮮だが、将来の国家目標は、形態は異なるにせよ南北統一である点では同じだ。そして、南の韓国が思い描く統一の前提となる理想的状態が、おそらく、この小説の結末であろう。

 韓国大統領・李明博が9月の国連総会出席のため、ニューヨークを訪問した。この機会に開かれた外交フォーラム(9月21日)で、李明博は「北朝鮮経済が良くなってこそ、統一を考えることができる」と述べた(9月24日付け読売新聞)。

 李明博は「南北統一の大前提は、北の経済発展である」とする韓国の国家戦略を明言したのだ。

 北の政治体制には言及していないが、抑圧的独裁を望んでいるわけはない。小説「北朝鮮崩壊」のように、穏健な体制の登場を期待しているに決まっている。

 穏健な政治体制のもとで経済発展を成し遂げた北との統一。この理想実現のために何を為すべきか。

 韓国という国家の行動原理はここに集約されている。

 現在、見事な経済発展を遂げた韓国と経済が破綻したも同然の北朝鮮では、その所得の差は比べようもない。

 今年8月27日付け聨合ニュースは、韓国租税研究所による分析結果を報じた。それによると、1990年代初めの段階では、韓国の1人当たり所得は北朝鮮の6~8倍だったが、2007年段階では17倍に広がった。

 これに基づいて、現時点で統一し、韓国側の国民基礎生活保障制度、つまり低所得者援助などが適用されれば、ほとんどの北朝鮮住民が対象となると推計する。そのための莫大な財政支出は、北朝鮮国内総生産の300%に達するとしている。

 数年前に米国のランド研究所が米政府の依頼でまとめ公表した報告書は、南北統一の費用を具体的数字で示している。


 同研究所は「統一費用」を「統一から4年~5年内に北朝鮮の国内総生産(GDP)を2倍に増大させるための費用」と定義し、現在の北朝鮮の経済規模を、韓国の25~27分の1と推定、統一後の制度改革、軍縮など、数多くの要素をまとめて分析した。その結果、少なくとも500億ドル(03年米ドル基準)から最大6700億ドルがかかると予測した。

 報告書はまた、南北朝鮮の経済格差が東西ドイツよりはるかに大きく、人口でも東ドイツが西ドイツの4分の1だったのに対し、北朝鮮は韓国の半分、このため統一費用はドイツの場合よりはるかに大きくなるとみている。

 つまり、現時点での統一は、巨大な経済負担のほとんどを韓国が背負うことになり、その重みで韓国自体が押し潰されかねないということだ。統一による混乱は、北朝鮮の経済が発展すればするほど穏やかに押さえることができる。

 金正日体制の突然の崩壊、新たな権力の奪取を目指す様々な集団の衝突、混乱から逃れて隣接する韓国や中国、ロシア、あるいは日本にまで津波のように押し寄せる難民の群れ。

 この最悪事態を回避するには、当面は、顔をそむけたくなるような醜悪そのものの金正日を支える以外に、選択肢があまり見当たらない。腹立たしくても、これが現実だ。

 そして、支えながら変革の方向へと仕向けていく。

 南北朝鮮の様々な会議、米朝の直接接触、核問題をめぐる6か国協議、中朝政府関係者の往来etc。利害関係国は、北朝鮮と接触する場をとらえ、長期戦略目標の実現を目に見えないアジェンダにしている。

 そのテーブルで北朝鮮に対して切れるカードをどう使うか。

 このゲームへの非常に奇妙な参加者は日本だ。日本の手持ちカードをみんなが知っている。切り札が1枚もないのも知っている。これではゲームにならないが、テーブルに座っている。

 日本は拉致問題が解決しなければ、北朝鮮に対し何もしないと主張して自らの手足を縛ってしまっている。それによって、北朝鮮に対する長期戦略も描けなくなった。日本は北朝鮮をどうしたいのか。それがまったく見えない。

 日本は、金正日体制は直ちに打倒したいのか、北の変革を推進することに貢献したいのか、南北統一を実現したいのか、東アジアの秩序をどうしたいのか。

 だが、解釈のしようによっては、拉致問題を思考停止の口実にしていると勘ぐることもできる。

 世界的金融グループ「ゴールドマンサックス」は最近、南北統一朝鮮が実現すれば、2050年には、国内総生産(GDP)がフランス、ドイツ、日本などの現経済大国を上回る可能性があるとの報告書を明らかにした。従来からある悲観的な統一未来像とは、かなり趣きを異にしている。

 それによると、統一が実現すれば、ドル換算GDPが30~40年後、米国を除いたG7と同じ水準か、それ以上になりうるとし、2050年の実質GDPは6兆560億ドルで、昨年の韓国GDP(8630億ドル)の7倍に達する。

その要因として、北朝鮮の成長潜在力が南韓の技術・資金力と結合するシナジー効果、北朝鮮の豊かな人的資源と大規模な鉱物資源などを挙げている。

 非常に楽観的な未来予測のようにも見える。だが、もし、この通りになれば、日本は、スポーツだけでなく国力でも、中国と統一朝鮮の下に埋没してまう。古代東アジア地政図の再来にも思える。

 21世紀は、日本没落の暗い時代だと予感させるではないか。

 だから、日本は、朝鮮の復興となる南北統一の実現を快く思っておらず、実は、拉致問題にしがみつくのも、統一を少しでも遅らせようとする戦術かもしれない。

 あまりに稚拙な日本の対北朝鮮外交戦術をみていると、何か裏があるのではないかと探りたくなる。

 探っても、何もない空っぽだったら、寂しくもあるのだが…。

2009年10月6日火曜日

トキが放鳥された


 西暦29xx年、人口減少で絶滅危惧種に指定されていた日本人最後の1人が死亡し、ついに、日本列島から日本人が完全に消滅した。

 そこで、絶滅危惧人種の復活を手がけてきた「ヒト保護センター」は、世界各地にわずかに残っているとみられる純血種日本人探しを開始した。

 その結果、生殖能力のある男女20人をやっと発見し、東京の「保護センター」に収容した。生活意欲を喪失していた彼らに、日本人再生のための性教育から職業訓練に至るまで、様々なプログラムを用意した。

 センターでの全課程を修了し、人種のるつぼと化した日本列島の実社会に復帰したとき、彼ら同士で恋をし結婚し、新たな日本人の生命が誕生するよう綿密に組まれたプロジェクトである。

 そして、最後の日、20人は、期待に胸をふくらませるセンター職員たちへ向かって元気に手を振り、笑顔で街へ出て行った。

 だが街角を曲がって、センターが見えなくなると、20人の表情から、すっと笑顔が消え、互いに挨拶もせずバラバラの方向へ散っていった。

 誰もがぶつぶつ言っていた。「あいつらといるのは、もうウンザリだ」、「アタシのタイプの男は1人もいないじゃないの」云々…。

2009年10月2日金曜日

今度はパダンで地震!!


 南太平洋サモアに続いて、9月30日、今度はインドネシア・スマトラ島のパダンで大地震が起きた。まるで地球が壊れてしまったみたいだ。

 パダンと言えば、文化人類学的にはミナンカバウ人の伝統的母系社会が知られている。そして、何よりも「パダン料理」が有名だ。インドネシア料理を代表する一つで、アメリカ大陸より広い5000キロ以上に及ぶ群島国家のどこに行っても食べられる。村の小さな食堂から外国人観光客向けの高級レストランまで様々だが、味の違いは料金の違いほどないと思う。

 客が座るや否や、テーブルにところ狭しと料理の載った小皿が並べられ、さらには、ピラミッド状に積み重ねられる。肉や魚など香辛料を効かせて調理したものがほとんど。客の好みなど訊かない。まるで押し売りのように目の前に、有無を言わせず出す。

 だが、心配することはない。客は食べた分だけ払えばいいのだ。日本の回転すしのシステムに似ているかもしれない。いや、もっと合理的だ。例えば、1枚の小皿の魚2尾のうち1尾だけ取れば料金は1尾分だけ。回転すし屋で、皿に載った2貫のにぎりのうち1貫だけ取るというわけにはいかない。

 パダンで地震と聞いたとき、真っ先に思い浮かんだイメージは、積み重ねられたパダン料理の沢山の小皿が飛び散る光景だった。

 ミナンカバウの人々は、インドネシアで特異な存在かもしれない。人口の60%を占める支配民族ジャワ人の文化は、白黒を明確にしない。曖昧さを大切にする。イエス、ノーをはっきり表明せず、相手の気持を読む、以心伝心、阿吽の呼吸といったものを大切にする。日本文化に共通するもののようにも思える。

 これに対し、ミナンカバウ人は歯切れがいい。物事を明瞭に表現する。反骨精神も強い。外国人には話していて理解しやすい人々だ。インドネシアの作家、ジャーナリスト、詩人にミナンカバウ人が多いのは、なんとなく納得できる。ようするに、歯ごたえがあって、面白いヤツが多いのだ。

 今すぐ彼らを助けに行きたい、などと偽善的なことは言わない。彼らとパダン料理を食べながら、バカ話をしたくなった。