今月、パキスタン初の女性外相が誕生した。 その外相が7月27日、関係がぎくしゃくしている隣国インドを訪問し、インド外相S.M.クリシュナと会談した(画像)。 1年ぶりの両国外相会談だけに関係改善のきっかけになるのではないかと注目されたが、もっと注目されたのは、パキスタン女性外相ヒナ・ラッバーニ・カルの存在そのものだった。
とにかく、若くて人目を引く美人だったのだ。 かつて、スリムなジーンズをはいた姿が新聞に掲載されたときは、伝統的イスラム社会のパキスタンで物議をかもしだしたそうだ。 インドの新聞は大はしゃぎで報じた。
「モデル並みの大臣」
「デリーの空もうっとり」
「パキスタンの爆弾がインドに落ちた!」
身につけたファッションのブランド、価格まで事細かく伝えた。 腕に下げている大きめのバッグは、エルメスのBirkin bag だそうだ。
確かに、インド人ならずともビックリする美女である。 ということは、女に弱くて、国際問題にも弱い一部の日本の友人のために、多少の冷静な解説をしておく必要があるということだ。
ヒナは、1977年1月19日生まれの34歳。 ビジネスマンの夫との間に2人の娘がいる。 父親はパンジャブ州のベテラン政治家グラム・ラッバーニ・カル。 1999年ラホール経営学大学で経済学の学位を取ったあと米国に渡り、2001年マサチューセッツ大学でホテル経営学のMBAを取得した。
2003年父親の勧めで総選挙にパキスタン・ムスリム連盟カーイデアザム派から立候補し、国会議員に初当選。 2008年の選挙ではパキスタン人民党に鞍替えして当選。これまで経済関係担当の国務相などを歴任してきた。
ラホールのポロ競技場では、上流階級向けの高級レストランPolo Loungeを経営している。 トレッキングが好きで、実際に登ったとは思えないが、カラコルム山脈の8000m級高峰K2、ナンガパルバットに行ったことがあるという。
外相には、今月19日に就任したばかり。 この人事について、大統領アシフ・アリ・ザルダリは「国家運営の中心に女性を参画させようとする政府の姿勢を示すものだ」と語った。
パキスタンといえば、国際的テロ組織アル・カーイダのメンバーを匿っていると疑われ、隣りのアフガニスタンの政治不安を引き起こしているタリバンとの関係も指摘され、国際的イメージは危険で怪しげな国家になっている。 そこに出現した若くて美しい外相は、パキスタンのイメージ改善に大いに貢献するかもしれない。 実際、長年の仇敵インドの報道ぶりがそれを示した。
だが、美人外相の誕生は、決してきれい事ではない。 あくまでも魑魅魍魎のパキスタン政治のメカニズムが働いた結果であるはずだ。
パキスタンの真の最高権力者として政治を動かしているのは軍だ。 軍の意向に逆らったり、波風を立てるような人物は政府から排除されなければならない。 ヒナの前任シャー・メフムード・クレシは野心家で、それゆえに交代させられたとされる。
パキスタンの政治問題専門家ハサン・アスカリは言う。
「軍に代表される権力者たちは、彼らの言うことをなんでも受け入れるヒナに満足している。 彼女なら問題を起こさない」
つまり、真の権力者たちは手ごろな飾り物としてヒナを選んだのだ。
また、大統領ザルダリが言うような「女性の参画」が現状のパキスタンで進むとも思えない。
パキスタン社会には、封建制と呼べるような古い伝統がしっかりと維持されている。 大土地所有者の農園で、農民たちは農奴同然の身分に置かれている。 パキスタン国会とは大土地所有者たちの利害調整の場でしかない。
ヒナの家も典型的な地主で、広大なサトウキビ・プランテーションやマンゴー農園を持っている。 彼女が米国でMBAを取得しようが、政治的立場は現在の社会構造を維持しようとする保守派である。 ヒナの外相就任と女性の本格的な社会進出には、なんの関連性もないのだ。
一見、パキスタンの変化を示すような美人外相の誕生だが、実際のところ、権力者たちが現状維持を固めるために権謀術数をめぐらせた結果としか言いようがない。
そう思って、ヒナの写真をあらためて見ると、客に媚びる水商売の女のようでもある、と言っては言い過ぎか。 そりゃ、いくらなんでも言い過ぎだ。
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