サウジのラハ・モハラック |
ネパールのミン・バハドゥール・シェルチャン |
日本ではほとんど報じられていないが、日本人の冒険家・三浦雄一郎が世界最高齢80歳のエベレスト登頂に成功する5日前の5月18日、もう一つの画期的なエベレスト登頂があった。 サウジアラビアの女性として初めての登頂だ。
イスラム教社会の古くからの伝統が維持されているサウジアラビアでは、女性の社会進出やスポーツ参加には厳しい制約がある。 世界で、女性の自動車運転が認められない唯一の国でもある。 オリンピックへの女子派遣も2012年ロンドン大会でやっと実現した。
こういう国の女性がエベレストに挑戦したこと自体が驚きであり、まさに画期的な出来事と言える。 彼女の名前は、ラハ・モハラック、27歳のグラフィック・デザイナー。 「伝統的で保守的な家族に登山を認めてもらうよう説得するのは、エベレスト挑戦と同様大変なことだった」と、ツイッターに書き込んでいたという。
さらにもう一つ、日本であまり報じられていないニュースは、三浦にとって最も手強いライバル、81歳のネパール人ミン・バハドゥール・シェルチャンのエベレスト再挑戦だ。 2008年5月、三浦が75歳での登頂に成功する直前、76歳のシェルチャンが頂上を極め、「世界最高齢」の栄誉をかっさらった。 今回は、三浦のあとの挑戦だが、成功すれば三浦の栄冠はほんの短期間で再びシェルチャンのものになる。
これは、三浦にとっても、日本の愛国者たちにとっても面白くない。 おそらく、日本でシェルチャンのニュースが多く伝えられない理由だろう。 だが、右翼メディア・産経はベースキャンプまで行って、こんな記事を送っていた。
「シェルチャン氏は17日、ベースキャンプで取材に応じ、1931年6月20日生まれの81歳と答えた。登山目的については『世界平和や核の根絶をベースキャンプに集まる登山者を通して訴えたい』と話した。
しかし2008年、産経新聞の取材では、年齢が不自然に変更された経緯があったほか、頂上アタック時にはキャンプ1(標高6050メートル)以上での目撃情報がなく、登頂後、証明写真の提示もなかった。
今回はヘリコプターでベースキャンプ入り。高所登山に必要な高度順化もしていないといい、『準備が急で登山費用が集められず、訓練もしていない』と話す。各登山隊からは登頂が可能なのか疑問視する声も上がる」
シェルチャンは年齢をごまかし、登頂成功もウソだと臭わせている。 右翼の希望的観測で終らないことを祈る。 しかし、今回のシェルチャンの挑戦は、ネパール政府も100万ルピー(約110万円)の支援金を出すことを決めて応援している。 したがって、彼が成功したとき「インチキだ」と声を張り上げるのはネパール政府を敵に回すことになりかねない。 とりあえずは、静かに失敗を祈るのが得策だろう。
(シェルチャンは5月28日、体調不良で登頂を断念したという”朗報”が伝えられた。 多くの日本人はほっとしたことだろう)
三浦の成功は、おそらくスポンサーから提供された莫大な資金と大人数の支援によるものだ。 三浦は登ったのではなく、運び上げられただけだったのかもしれない。 そうだとすれば、本来の登山とは異質のものだ。 検証しなくてはいけない。
騒がれすぎる三浦の”成功”、その前後の無視された二つの挑戦。 このイビツさはどこから来るのか。