JR北海道の度重なる事故、不祥事のニュースによれば、JR北海道の鉄道レール幅は1067mmに決まっていて、19mm以上の広がりがあった場合は15日以内に補修することになっていた。 ところが、この基準の2倍近い37mmになっていても放置されていたそうだ。
このニュースが流れて、すぐに連想したのはエジプトの光景だった。 1990年代、首都カイロから中部の都市アシュートへ鉄道で行った。 当時、イスラム過激組織が散発的なテロ活動をしていた。 テロとはいっても子どものイタズラに毛がはえた程度で、鉄道線路沿いのサトウキビ畑から列車に向かって発砲するくらいだった。 治安当局がとった手っ取り早いテロ対策は、線路沿いのサトウキビを刈り取ってしまうことだった。 そうすれば、”テロリスト”が畑に隠れて発砲できないというわけだ。
なんとなく長閑なテロ騒ぎではあったが、無論、背景には様々な社会的不満があった。 そんな情況の一端を見てみたくて列車に乗った。 広々とした特等席でナイル川と平行する田園風景を眺めながらの特急列車の旅は、なかなか快適だった。
だが、アシュート駅で降りて、列車が去ったあと、ホームから何気なく線路に目を向けて驚いた。 2本のレールは、まるで2匹の長大なヘビが胴体をくねくねとうねらせているようだった。 鉄のレールが摂氏40度の暑さで蕩けてしまった棒飴のようにも見えた。 2本の真っ直ぐな平行線という線路のイメージが根底から覆された。
よくぞ脱線しないでレールの上を走ってきたものだ。 しかも快適な乗り心地で。 当時は、線路などというものは、かなり大雑把で、幅が多少狂っていても気にしなくていいものなんだと思い込んでしまった。
しかし、これはとんでもない間違いだった。 エジプトでは大きな列車事故が頻繁におきているのだ。2002年には360人が死亡するという列車火災が起きた。 しかも、カイロとアシュート間300kmを結ぶ鉄道は、とくに危険なようだ。
昨年11月には、 アシュート近くの踏切で遠足の幼稚園児などが乗ったバスが列車と衝突し、51人が死亡した。 この事故は、JR北海道が優等生にみえてしまうような原因で起きた。 遮断機を操作する係員が居眠りをしていて、遮断機を下ろさなかったためバスが突っ込んだのだ。
そして、今年1月には、ついに、あのカイロ―アシュート間で脱線事故が起き、乗っていたエジプト軍兵士など19人が死亡、109人が負傷した。 やはり、レールは蛇行していてはいけないのだ。
エジプトの鉄道は、迷走するエジプトの政治のようだ。 「アラブの春」の盛り上がりで、世界が賞賛する民主革命に成功したのに、国内の政治対立が続き、民主主義という列車がレールにうまく載らない。 乗り心地がいいのに、いつ脱線するかわからない特急列車。 これは、まさにエジプトの現実ではないか。