2014年5月26日月曜日
タイは革命前夜
タイ人は幸せな人々だ。 何が起きようとあせることはない。 彼らは、「どうにかなる」と時間がたつのを待っていれば、すべてが解決すると信じている。
バンコクの交通渋滞。 高架鉄道が設置されてから多少は緩和されたが、やはりひどい。 外国人は渋滞に巻き込まれてイライラするが、タイ人は動じない。 スノッブな金持ち女たちは、優雅な表情を作って、BMWやメルセデスの運転席で携帯電話の会話を続けている。 彼女たちにとって、渋滞とは、高級車に乗った幸せな自分の姿を、歩道を歩く金持ちになれない普通の人々にみせつける願ってもないひとときなのだ。
どんなにひどい渋滞でも永遠に続くことはない。 やがて動かなかった車列も動きだす。 そしてタイ人は言う。 「ほら、何も問題はない」。
タイは、この20年あまり、めざましい経済発展を遂げた。 その原動力になったのは、日本をはじめとする海外からの企業進出や投資だ。 だがタイ人は言う。 「ほら、ちゃんと経済発展をしたじゃないか」。
タイの長引く政治混乱の解決方法は誰も知らない。 対立する二つの勢力のいずれも、渋滞にはまって抜け道をみつけられない状態だった。 そして、5月22日、タイ伝統の軍事クーデターが起きた。 過去の例を見れば、軍が出てきて成功したこともあれば、しなかったこともある。 ダメなら、次は国民の尊敬を一身に集める国王プミポンの登場となる。
国王の一言で事態は収拾する。 やがて、超法規的クーデター体制が終わり、国会と政府が復活する。 タイ人は、これを「タイ式民主主義」と呼ぶ。
みんながそれでいいと言うなら、「民主主義」かもしれない。 だが、タイの「どうにかなる民主主義」も、そろそろ終わるに違いない。
86歳という高齢のプミポンにかつての精彩はない。 王位継承権を持つ長男の王子ワチラロンコンには人望がなく、王室にひれ伏してきたタイ人も王制の存続に不安を抱く。 最後は国王に全面的に頼るという政治伝統が終焉を迎えようとしているのだ。
そして政治社会構造の変化を見逃すことはできない。 経済的・社会的な既得権益者たちと軍による支配構造の上に国王を据えたシステムが、時代の変化に対応しきれなくなっている。 これまで政治的弱者だった北部・北東部の貧困層が発言するようになり、従来の支配構造の再構築を目指しつつある。 現在の政治混乱の根源である。 革命前夜と言えるかもしれない。
つまり、何もしないで待っていても、何も起きない新しいタイが生まれようとしているのだ。 われわれは今、歴史の目撃者になっている。
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