座るキリン(アル―シャ国立公園で) |
睨みあうライオンとバッファロー(ンゴロンゴロ保護区で) |
タンザニアに行ったのは、静かな場所で、のんびりと何もしないで2週間ほど過ごしてみたかったからだが、アフリカの野生動物たちを間近に見ることができるサファリに行かない手はない。 というわけで、アル―シャ国立公園、タランギレ国立公園、それにンゴロンゴロ保護区の3か所のサファリ・ツアーに行った。
アフリカでのサファリはケニアで経験したことがある。 有名なアンボセリとマサイマラに行った。 動物の種類と数が豊富なケニアと比べると、タンザニアの平原は、ちょっと寂しい。 われわれは幸運だったが、例えば、タランギレは象に会うチャンスのあるところだが、まったく会えないで失望して帰る観光客は珍しくない。 ンゴロンゴロはライオンが一番の見ものだが、やはりタイミングが外れると見ることができない。 一方、ケニアでは大物に会える確率はかなり高い。 象やキリン、シマウマなど集団を形成する動物の群れもタンザニアより、はるかに大きい。 初めてサファリを体験しようという人なら、ケニアの方が確実に楽しめるだろう。
タンザニアのサファリは、Big 5 と呼ばれる大物をがつがつと追い求めるより、大自然に身を置いて、動物の1種のヒトとして生きることの意味を静かに感じとってみるのがいい。 ここは、やがて地球全域へ旅立っていく現生人類が誕生した土地でもあるのだから。
だが、タンザニアでは、ダイナミックな光景ではないが、とても珍しい場面に出会うことができた。 アフリカの野生動物に詳しい人には、どうということではないのかもしれない。 だが、素人目には驚きであった。
ひとつは、アル―シャ国立公園で見たキリンが座っている姿だ。 キリンというのは決して座らない動物だと信じきっていた。 動物園のキリンだって、いつも立っている。 そもそもキリンの背が高いのは、広大な平原で遠くを見渡し、外敵をいち早くみつけられるように進化したからではないか。 眠るときも立ったままで、深い眠りに入るのはごく短時間と習ったはずだ。
ガイドの説明によれば、アル―シャ国立公園に、キリンの唯一最大の外敵であるライオンはいない。 このため、キリンは警戒をする必要がないから、のんびりと座っている。 ここではキリンが座っている姿が普通に見られるという。 これは、ある種の退化ではないか。 文明のおかげで便利な生活ができる現代人のように。
もうひとつは、ンゴロンゴロ保護区で遭遇したライオンとバッファローの緊張みなぎる睨みあいだ。
われわれが草原に座る5頭のライオンをみつけたとき、彼らは150mほど離れたところに群れている約20頭のバッファローに狙いを定めていた。
1頭の雌ライオンがバッファローににじり寄っていく。 やや遅れて、他のライオンもバッファローに迫っていく。 最初のライオンは1頭のバッファローまで10mほどのところまで接近しダッシュした。 だが、バッファローは素早く身をひるがえして逃げた。 ライオンの爪が到底届かない十分な余裕があった。 バッファローの群れは一斉に走り、ライオンから100mほどの安全な距離をとった。 ライオンの狩りは完全な失敗。
だが、ドラマはこれで終わらなかった。 逃げたバッファローの群れがライオンに向かって戻りはじめたのだ。 先頭は、最初にライオンの標的になった1頭。 次第に距離を縮め、間隔はほんの10mになった。 ここでバッファローは立ち止まり、後続の群れも動きを停めた。 ライオンとバッファローの睨みあいが始まった。 バッファローの反撃だ。
ライオンたちも座ったまま動かなかった。 バッファローに襲いかかろうとはしない。 仕留める自信がないのだろう。
双方がじっとしたまま30分はたっただろうか。 何頭かのライオンは腹を上にして、地べたに背中をこすり始めた。 明らかに戦意を喪失した動作。 バッファローたちは、それをみつめている。
それから、さらに30分。 ライオンの群れはゆっくりとバッファローから離れ、遠くへ去っていった。 バッファローがライオンとの心理戦に勝ったのだ。 彼らはその場に動かず、何事もなかったように草をはみ始めた。 ライオンのメンツは丸潰れだ。
「百獣の王ライオン」というイメージと常識が見事に崩れ落ちた。 ライオンがいつも勝てるわけではなかったのだ。 野生動物の世界は奥が深い。 自然界ではか弱い動物であるヒトが地球を支配できるのも、この奥深さのせいだろうなあ。