2009年10月6日火曜日

トキが放鳥された


 西暦29xx年、人口減少で絶滅危惧種に指定されていた日本人最後の1人が死亡し、ついに、日本列島から日本人が完全に消滅した。

 そこで、絶滅危惧人種の復活を手がけてきた「ヒト保護センター」は、世界各地にわずかに残っているとみられる純血種日本人探しを開始した。

 その結果、生殖能力のある男女20人をやっと発見し、東京の「保護センター」に収容した。生活意欲を喪失していた彼らに、日本人再生のための性教育から職業訓練に至るまで、様々なプログラムを用意した。

 センターでの全課程を修了し、人種のるつぼと化した日本列島の実社会に復帰したとき、彼ら同士で恋をし結婚し、新たな日本人の生命が誕生するよう綿密に組まれたプロジェクトである。

 そして、最後の日、20人は、期待に胸をふくらませるセンター職員たちへ向かって元気に手を振り、笑顔で街へ出て行った。

 だが街角を曲がって、センターが見えなくなると、20人の表情から、すっと笑顔が消え、互いに挨拶もせずバラバラの方向へ散っていった。

 誰もがぶつぶつ言っていた。「あいつらといるのは、もうウンザリだ」、「アタシのタイプの男は1人もいないじゃないの」云々…。

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