2010年3月13日土曜日

美しくも醜悪な…



 最近、久しぶりにカメラを買った。すっかり気に入って散歩やジョギングにも持ち歩き、手当たり次第にシャッターを押すようになった。


 そのうち、被写体として、日向ぼっこをしたり、散歩をしている老人たちが気に入ってしまった。


 動作はにぶくて、ぎこちない。表情は変化が乏しく、暗く沈んでいる。だが、撮影した画像を見ると、そこには、しっかりと生きている人間の姿がある。実はたいした生涯ではないのかもしれない。おそらく、街ですれ違うジジイ、ババアのほとんどは、馬齢を重ねてきただけに違いない。


 それでも、老人たちの姿には惹かれるものがある。一人の人間が生きてきた歴史を感じるからだ。

 だが、これが偽善的な老人賛歌であることを、たちまち思い知らされた。

 たまたま、特別養護老人ホームの近くを歩いていたとき、前から老夫婦とおぼしき二人連れがやって来た。夫の座った車椅子を妻が押していた。

 シャッターチャンスを逃すまいとカメラを構えようとしたとき、妻が手を離したせいか、車椅子があらぬ方向へ動きだし歩道からはみ出しそうになった。すると、妻はあわてて車椅子をひっつかみ、凄い剣幕で夫の後頭部を平手で何度も叩きながら、激しい罵りの言葉を浴びせかけた。

 醜悪そのもの。写真を撮る気は失せた。目の前に来た老妻に向かって、「そんなに叩かなくてもいいだろ!」と、どなってしまった。

 ところが、ババアは負けずに、こちらを睨み返して吐き捨てるように言い返した。

 「あんたなんかに、わかるわけないだろ!」

 そう、このクソババアは、彼らの疲れ果てた夫婦関係も、人生が醜くもあることも、お前なんかに「わかるわけないだろ!」と見透かしたのだ。

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