2010年7月27日火曜日

山ガールたちの使命


 昨年の9月ごろから両膝の故障が悪化して、ジョギングどころか歩行にすら支障が出て、悪友から居酒屋に呼び出しを受けたときは、杖をついて出かけるはめになった。 そんなにまでして飲みに行くことはないだろと言われるが、飲みにいくなら車椅子だって買うだろう。 C'est la vie!!
 だから、苦痛に耐えて、テニスもスキーもやめなかった。 それはほとんど自虐的快感でもあった。 ただ、山歩きだけは控えた。 山の中で身動きできなくなるのは、やばい。 命とともに、様々な楽しみを捨て去る気はまだ毛頭ない。 とはいえ、山の自然と霊気の中に身を置く気持ち良さを諦めたわけではなかった。
 コンドロイチンだとかグルコサミンとか変形性膝関節症で擦り減った軟骨を回復するというサプリメントの広告が、ちまたには溢れている。 だが、医者の診断を信じれば、「あなたの関節に問題はない。 腱か筋肉の過労でしょう」。
 「だったら自分で治してやろう」。 春が来たころから、膝を中心としたストレッチング、それにサイクリングを開始した。
 ストレッチングは、腰痛をこれで治した経験があったからだ。 飲み屋の小上がりで長いこと胡坐をかいていると固まってしまう腰が完治した。 サイクリングは、たまたま膝の痛みが強いときに自転車に乗ってみたら、痛みが和らいだのを感じたからだ。 ペダルを踏むときではなく、膝を引き上げるときの動きが硬くなった筋肉をほぐすようだった。 とにかくサイクリングをすると膝が軽くなる。
 膝痛はみるみる改善した。 だが調子に乗りすぎるのはいけない。 パラオにスキューバ・ダイビングに行ったついでに参加した5キロの市民マラソンで痛みがぶり返してしまった。

 それで一から出直し。 どうやら体幹、体軸にしっかり乗って歩いたり走ったりすれば、膝への負担がかなり軽減されることがわかった。 つまり正しい姿勢で正しく動くこと。

 そして、ついに山歩き再開。 7月、高尾山、御岳山、大山と東京近郊三大ハイキングコースを制覇した。 いやー、嬉しかったね。 膝はけろりとしている。
 約1年ぶりの山。 それにしても驚かされたのは、山行く人々の様変わりだった。
 中高年の遊園地と化していた山々に、若い女たちがどっと繰り出していたのだ。 これは、ある種の浦島太郎体験だと思う。 膝の”闘病生活”のあいだに、山の世界は豹変していた。

 若い女たちは、奇妙なファッションを身にまとっていた。 ミニスカート風の腰巻、その下は派手なタイツやスパッツ。 東京近郊の低山を歩くにしては高価そうな山靴。

 第一印象は、カラフルなやぶ蚊。 やぶ蚊の黒と白の縞々をどぎつい原色で塗り替えたようなタイツがとくに人気のようで、あちこちで目にした。 ジジイ・ババアたちの従来のくすんだ色彩を小ばかにしたような色の氾濫。
 あのミニスカート風腰巻は、そもそも着けている必要があるものなのか。 おそらく、実用性の議論などは、ファッションからすればナンセンスでしかないのだろう。
 あとで、彼女たちが「山ガール」と呼ばれているのを知った。 誰かが仕掛けたビジネスらしく、ネットには「山ガール」のファッション・アイテムがずらりと並んでいる。
 まあ、最初は奇異な印象を受けたが、悪いことではない。 第一に、山に若者たちが帰ってきたのは嬉しいことだ。 若い女がいれば、金魚の糞みたいに若い男がぞろぞろついてくる。

 大学山岳部や○×山岳会がでけえツラをしていた光景は、もはや化石時代。 現代はみてくれの時代なのだ。 みてくれの追求が、山をはなやかにしてくれるし、日本経済の復活に多少の貢献だってしてくれるだろう。
 それにしても、「山ガール」が山で遭難でもしたら、新聞だとかのオールド・メディアは「ファッション登山に警鐘を鳴らす」なんてクソまじめな社説を掲げるに違いない。
 遭難しようが、右傾化メディアの好きな言葉で言えば「自己責任」だ。 彼女たちの使命は、つまらない批判にへこたれない精神的・肉体的強靭さを身につけることだ。
 山の復活は、当面、彼女たちの双肩にかかっているように思えるからだ。 いや、双肩じゃなくて、みてくれかな?
 というわけで、元気になりました。 C君、久しぶりに山に行きませんか?

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