2013年12月13日金曜日

ヒツジ飼いとヒツジ―特定秘密保護法案


 安倍晋三という首相の政治的メンタリティは、自分はヒツジ飼いで国民はヒツジと位置付けているのだと思う。 ヒツジの群れは放っておくと勝手にどこへ行くかわからない、だからヒツジ飼いは棒を振り回して、ヒツジが牧場の中におとなしく留まるようにしなければならない。

 
 憲法改定議論でも特定秘密保護法案議論でも、ヒツジ飼いがヒツジを小バカにするような国民への目線をどうしても感じてしまう。

 それでは、国民の大半が反感を抱く特定秘密保護法案を成立させることに、安倍が固執する動機は何だろうか。 おそらく、その一つは、一国の首相としての抜き難い国際的劣等感だと思う。

 この法案が参議院を通過したあとの記者会見の短い冒頭スピーチの中で、安倍はわざわざアルジェリア人質事件に言及した。 この事件は、今年(2013年)1月16日、アルジェリア東部の天然ガス精製プラントで起きた。 イスラム武装勢力が、日本人、アメリカ人、イギリス人、フランス人など外国人多数を人質に取り、翌日の救出作戦の際、日本人10人を含む人質37人が死亡した。

 「アルジェリア人質事件では英国のキャメロン首相から情報提供を受けた。情報交換を進めることが国民の生命と財産を守ることにつながる。各国には国家秘密の指定、解除、保全などに明確なルールがある。わが国が機密情報の管理ルールを確立していなければ、外国から情報を得ることはできない。日本を守る航空機や艦船の情報が漏洩する事態になれば、国民の安全が危機にひんする。人命を守るためテロリストへの漏洩を防止しなければならない情報がある」

 この1か月前、時事通信は「背景に米の意向=アルジェリア事件が後押し-秘密保護」の見出しで、こんな記事を配信していた(2013年11月7日)。
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 安倍政権が特定秘密保護法案の成立を急ぐ背景には、同盟国間で共有する機密の保全を求める米政府の意向がある。特に、政権発足間もない今年1月のアルジェリア人質事件で、在留邦人の安全確保に米国の情報が不可欠であることを痛感し、法制化に前のめりとなった。

 米政府は「スパイ天国」とも称される日本の情報管理に懸念を抱き、日本政府に機密保全への具体的対応を求めてきた。とりわけ2001年の同時テロ以降、米政府はテロ情報の収集と保全を強化。05年10月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同発表には「共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置を取る」と明記された。

 第1次政権でもNSC法案を提出した首相にはもともと秘密保全への問題意識があったが、危機感をあおったのがアルジェリア人質事件だ。同国の複数の政府機関から寄せられた情報は相矛盾することもあったため、日本政府は米英両国の「確度が高い」(政府高官)情報に頼らざるを得なかった。両国の情報機関とより緊密に連携するため、秘密保護法制化を急務ととらえた。
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 アルジェリア事件に限らず、国外の出来事に関する日本政府の情報収集能力は非常に貧困とされる。 北朝鮮の核実験やミサイル発射の際も、日本政府が独自に収集した情報はおそらく皆無だ。 米国と韓国が譲ってくれる情報がすべてであろう。

 世界各国の日本大使館には防衛省から派遣された武官が駐在している。 彼らの責務は軍事情報の収集だが、非公開・機密に属する対象が多いだけに、プロのスパイでもない武官に独自の情報収集など簡単にできるわけがない。 各国の武官も似たり寄ったりで、日常業務は地元新聞やテレビのニュースを細かくチェックする以外にさしてやることはない。

 そのせいか、どこの国でも各国駐在武官たちは非常に緊密なコミュニティを形成し、頻繁にパーティを開いて酒を酌み交わす。 こうやって、数少ない手持ちの情報を交換しあうのだ。

 だが、こういうコミュニティの中で、米国は別格だ。 ときには英国やフランスも別格になる。 国際的影響力のある大国のもとには情報も吸い寄せられる。 だから日本の武官は大国、とくに米国の武官にすり寄る。 耳新しい情報をめぐんでもらうと東京へご注進となる。

 
 これが現場での”軍事機密情報収集活動”の実情と言って大きな間違いはないはずだ。 日本の情報収集とは、スパイ映画のCIAやMI6のヒーローたちの姿とはかけ離れた平身低頭の乞食にすぎない。

 しかも、現場ばかりでなく、政府のトップである首相も情報乞食をしていることを、安倍はアルジェリア事件を例にして白状したのだ。

 貴重な情報が国際的影響力のある大国に集まるのだとしたら、日本は依然として中小国だ。 イランの核開発問題がそれを示す。 イランの核開発を抑止するための交渉に参加している国は、国連安保理常任理事国5か国とドイツの6か国だ。 イランへの影響力と世界規模の問題への対応力によって、交渉参加国は決まった。

 イスラム革命後、日本政府は、米国をはじめとする西側諸国を敵視するイランとは独自の関係があり、米国との仲介役を果たせると言い続けていた。 だが、革命から30数年、日本がなんらかの仲介に貢献した気配はなく、核問題でも”独自の関係”があるイランに何かをした様子はうかがえない。 日本など、まったく相手にされなかったのだ。

 日本が国際政治の一流プレイヤーの仲間に入れる見通しは、当面まったくない。 だが、安倍は乞食をしても、見下されたりバカにされたくはなかった。 ”頂いた情報はきちんと大切にしますから、どうかお恵みを”。

 それにしても、安倍が情報を提供されることに劣等感を抱いているとしたら、なぜか。 米国は、日本の同盟国なのだから日本に情報提供するのは米国の義務だ。 もっと寄越せと堂々と要求することだってできるはずだ。 そればかりではない。 日本が軍事・治安機密情報を独自に収集できる能力を身につけるということは、軍事大国になることをも意味しよう。 そうなれば、アジア地域ばかりでなく世界の政治バランスの現状に予測不能の不安が生じるかもしれない。 米国だって、それは望まない。

 安倍の劣等感は、強くなりたい、大きくなりたいという野心の裏返しだと思う。 日本を世界的大国にして、強大な権力を持つ指導者になることを夢想しているのだ。 危険の臭いがぷんぷんする。

 富士山、東京オリンピック、和食…。 近ごろ、日本人のナショナリズムを鼓舞しようとするニュースが多過ぎはしないか。 安倍の野心と軌を一にした妙な雰囲気作りが進行しているのではあるまいか。  気味が悪い。 

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