2016年8月23日火曜日

「とと姉ちゃん」と「Top Gear」



 NHKの朝の連続ドラマ「とと姉ちゃん」の評判がいいらしい。 ドラマの出来は別にして、モデルとなった雑誌「暮しの手帖」に注目したくなる。
 
 この雑誌、今でも存在しているそうだが、なんと言っても、独自の「商品試験」が世間で注目され一世を風靡したころが、この雑誌の最盛期だったと思う。 大手企業や権力にひるむことなく、率直な商品評価を掲載していた。
 
 今でも、なんとなく記憶に残っているのは、石油ストーブが発火したときの初期消火のやり方で消防庁と対立したことだ。 当時の常識でもあり、消防庁の推薦は、火に毛布を被せるだったが、「暮しの手帖」はバケツの水をかける。 結局、消防庁での実験で「暮しの手帖」が勝ち、マスコミにも報道された。

 今の日本で、からだを張って商品評価をするジャーナリズムは見当たらない。 自動車、電気製品、カメラ、パソコン、あらゆる商品の紹介がマスコミに溢れている。 だが、たいていはメーカーの宣伝を焼き直した記事にすぎない。 専門家と称するジャーナリストが実名で解説する記事にしても、冷静な第三者的評価ではなく、メーカーにへつらって、その商品を手に入れようとする”たかり”目的ではないかと疑いたくなるようなものすら目につく。

 消費者目線のジャーナリズムはもはや存在しないのかと見渡してみると、「暮しの手帖」の現代版は、日本ではなく英国、BBCテレビの自動車情報番組「Top Gear」が目に留まった。 最近は出演者のごたごたで以前の迫力が消えたと聞くが、これぞ本物のジャーナリズムだ。

 日本の民放テレビの自動車情報番組は、”かっこいい”クルマを単に”かっこいい”と素人臭い感想を垂れ流しているだけだが、「Top Gear」はトヨタだろうがBMWだろうが、世界的なメーカーのクルマの性能を徹底的に検証して率直に批評する。 しかも、評価が悪いと「こんなクルマは買うな」といった辛辣さだ。

 ずいぶん前に、BMWの四輪駆動のSUVが取り上げられているのを見た。 急坂のラフロードを自動で走行するような装置も付いた高価なクルマだった。 だが、評価は「いろんな装置が付いているが、普段は不要だ。 このクルマの用途は、スーパーマーケットの駐車場で見栄を張るくらいかな」。 

 話は飛ぶが、クルマ好きで有名なウサイン・ボルトが「Top Gear」にゲスト出演して、番組の専用テストコースのタイムトライアルで好成績を出したことがあるという。

 「暮しの手帖」の姿勢は、本来はジャーナリズムとして当たり前のことだ。 そう、もちろん、それは商品検査に限られたことではない。 だが、日本の新聞が「暮しの手帖」の手法で、権力の商品試験に着手する日は来るのだろうか。

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