静岡県を流れる安倍川の源流域・梅が島、
そこからの遠景はすばらしかった。日本第2の高峰・北岳に繋がる南アルプスの南端に位置し、山々は深くて急峻だ。安倍川をはるか下界に見降ろす。その高さにはスリルすら覚える。友人Aは斜面で四つん這いになり立てなくなって高所恐怖症がばれてしまった。
人が住めるとは思えないような急斜面に小さな集落が点在していた。その光景を目にしたとき、ふと既視感を覚えた。どこだっけ?
フィリピンかインドネシアの棚田か。いや、鬱蒼とした緑は同じだが、こちらの景色の雄大さは桁が違う。
そうだ。イエメンだ。人も気候も文化も静岡とはまったく異なる遠いアラビア半島の国が目の前に現れた。
イエメンの険しい岩山では、緑ははるかに少ない。人々は、高い山の頂上や、いかにも不安定な尾根の上に石と泥で作った家に住んでいる。静岡では茶を作るため、イエメンでは外敵の侵入を防ぐために山に住み始めた。目的は違う。
が、「なぜ、あんなところに人が!」という驚きの第一印象が同じだったのだ。
連想のもうひとつは、茶だ。
イエメン人の一番の嗜好品と言えば「カート」だ。街の市場で葉の付いた枝を束にして売っている。人々は葉をちぎって、口の中でくちゃくちゃ噛み、唾液と混ざった汁を飲み込む。軽い幻覚作用があり、国際的には麻薬に分類されているというが、イエメンでは合法だ。
実際、イエメン政府の閣僚たちとの会合に行ったら、狭い部屋に呼ばれ、胡坐をかいた車座の真ん中にカートが山積みにされた。大臣たちと”麻薬”を楽しむなどという経験はそうあるものではない。
イエメンでは、このカートは茶の一種だと誰もが言っていた。山の斜面のカート畑は、梅が島の茶畑のようだった。
だが、静岡から帰ってWikipediaを見てみると、カートの学名は「ニシキギ科アラビアチャノキ」で、「ツバキ科チャノキ」とは近縁ではないという。つまり、カートは茶ではなかったのだ。連想のおかげで雑学の知識がひとつ増えた。今度イエメン人に会う機会があったら、この知識を披歴してやろう。
今回の小旅行の小さな収穫だ。見知らぬ土地なら、どこでも行ってみるものだ。
+ + + + + +
ところで、茶畑に行った目的だが、御多聞にもれず、ここでも、日本農業の深い問題である農村からの若者の流出で茶畑の存続が危うくなっている。その茶畑をボランティアたちが無農薬栽培などで守っていこうという運動を見にいったのだ。
聞けば、そこで作る日本茶は100グラム2000円とか3000円。超高級品と言っていい値段だろう。しかも、日本では、こんな値段の日本茶がネット通販で売れているという。
素敵な運動だし、これなら儲かれば、ボランティアというよりベンチャー・ビジネスとして成り立つではないか。
日本というのは、本当に凄い国だ。日本茶100グラムの値段が、貧しい平均的イエメン人の半月分くらいの収入に相当するのだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿