白土三平の壮大な歴史劇画「忍者武芸帖 影丸伝」は、戦国時代を舞台に、忍者・影丸が農民一揆を指導し、支配層へ苛烈な戦いを挑む物語だ。 影丸は殺されても殺されても生き返る不死身の存在である。 この不思議な現象によって白土が描くのは、同じ社会的矛盾が続くかぎり、それを是正しようとする民衆の行動は必然であり、とどまることがないという史観だ。
オサマ・ビンラーディンがついに、米国のパキスタンでの軍事作戦によって殺害された。
ビンラーディンがイスラム大衆の全面的支持を受けたことはない。 だが、彼の無差別殺人をも厭わない狂気は別にして、中東イスラム世界の人々は反米意識を共通して分かち合っている。 そこに、ごく少数の若者がテロという極端な行動に走る土壌がある。
民衆との接点がないビンラーディンは影丸ではない。 だが、ビンラーディンが死んでも、米国が世界、とくに中東地域の秩序作りを主導するかぎり、彼の思想に共鳴しテロリスト願望を抱く若者たちは、影丸のごとく決して消え去ることなく再生産されていくであろう。
いちどきに3000人を殺した9・11テロを遂行したビンラーディンの死は、歴史的出来事として米国民を歓喜させた。 だが、テロは決してなくならない。 人間が生きているかぎり癌の発病を根絶できないように、価値の多様性に鈍感な世界覇者・米国の存在そのものが、テロを生んでいる。
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