世界第2位のスーパーマーケット、フランスのCarrefourが日本での展開に失敗して2005年に引き揚げたとき、新聞か雑誌に面白い分析が出ていたのを記憶している。
「フランス人は、メルセデスに乗って百円ショップに買い物に行くような日本人の消費動向を理解できなかった」
こんな内容だったと思う。これが正しいとすれば、スーパーカーが一世を風靡した時代、ランボルギーニで銭湯に行く若造を見ていたら、フランス人はもっとうまい商売をできただろうに。
フランス人に限らず、確かに、外国人からすれば日本人の金持ちと貧乏人の見分けは難しいに違いない。小便臭い小娘がカルチエだのルイヴィトンといった高価なブランドものを身に着けているのを街でみかけても、日本人なら驚きもしないが、欧米人なら目をむくかもしれない。
日本人の生活は収入の差にかかわらず、驚くほど均質化している。
多摩川の河川敷をジョギングしているときに見かけるホームレス男は、近所のスーパーで普通の家庭の奥様方にまじって、彼女たちと同じ「本日特価」の鶏肉を買っていた。別の男は、疲れたお父さん方が飲むのと同じ栄養ドリンクの6本パックを買っていた。
2007年9月に多摩川が何十年ぶりかの洪水に見舞われたとき、頑丈に作ったブルーハウスのひとつが壊れずに土手まで流れ着いた。
中を覗いてみると、3畳ほどの広さで、想像したより小奇麗に整理され、手作りの棚にはステレオのラジカセと韓国の人気歌手・桂銀淑のテープがきちんと並べられていた。さらに驚かされたのは、最高級のものではないにしても、’MOET &CHANDON’ラベルのシャンパン・ボトルが口を開けずに置いてあったことだ。
「いったい、どんなヤツが棲んでいたんだ!」
居心地の良さそうな内部から想像するかぎり、社会のセイフティ・ネットから零れ落ち、かろうじて生きながらえている人間の棲み家ではない。
「ホームレス」とは経済的困窮生活の典型だろうが、中には、ボヘミアン的な、生きるスタイルとして選択した少数の変わり者もいるに違いない。
昨年(2008年)9月のリーマン・ブラザーズ破綻ショック以来の「百年に一度の経済危機」は、ホームレスの生活を直撃した。彼らの主たる収入源がアルミ缶の回収で、リーマン・ショック以降、アルミ相場が国際的に暴落したからだ。
コンビニやゴミ置き場をあさって、空き缶をかき集め、業者に持ち込む。だが、昨年夏に1kg当たり180円だった相場は下がり続け、今年2月には40円という底値に達した。この価格は、多摩川のホームレスから聞き出した数字で、地域によって多少異なる。集められたアルミ缶は回収業者に買い取られ、卸業者のもとへ運ばれる。日本アルミニウム協会のホームページに載っている「アルミニウム地金市況」の価格は、末端ホームレスの2~3倍だが、暴落は同じだ。
昨年の秋、回収業者と世間話をしていたら、価格の下落もさることながら世界のアルミの需要が激減して売れなくなったので、ホームレスの持ち込みは断っていると言っていた。彼らは国際的経済危機に直接曝され、暖冬とはいえ心が凍る冬を過ごしたはずだ。
東京のホームレスは2009年1月時点で、3,428人、1年前より368人減少した(厚生労働省の発表)。この数字をどう読むか。
河川敷の管理を業務としている国土交通省の河川事務所なるところが、きちんとした科学的動向調査を実施しているとは思わないが、ひとつの見方として、生活が苦しくなってホームレスをやっていけなくなり、生活保護を受けるようになったという減少理由をあげている。(ホームレスは生活保護者より経済レベルは上なのだ!)
この通りだとすると、未曾有の経済危機でホームレスを”脱落”したのは、前年比で10%以下ということになる。とは言え、この冬が苦しくなかったはずはない。
4月、桜の花も散って、このところ汗ばむ日もある。
ホームレスのジジイに声をかけてみた。2月にキロ40円だったアルミ缶が3月には45円、4月には60円、まだ上がりそうだと嬉しそうだった。国際経済はこんなところでも解読することができるのだ。日本経済新聞の展望が今後にやや明るさを取り戻してきたときと軌を一にする。
だが、ジジイは言った。「俺は去年、180円も経験しとる。まだまだ」。この欲張りめ!
「フランス人は、メルセデスに乗って百円ショップに買い物に行くような日本人の消費動向を理解できなかった」
こんな内容だったと思う。これが正しいとすれば、スーパーカーが一世を風靡した時代、ランボルギーニで銭湯に行く若造を見ていたら、フランス人はもっとうまい商売をできただろうに。
フランス人に限らず、確かに、外国人からすれば日本人の金持ちと貧乏人の見分けは難しいに違いない。小便臭い小娘がカルチエだのルイヴィトンといった高価なブランドものを身に着けているのを街でみかけても、日本人なら驚きもしないが、欧米人なら目をむくかもしれない。
日本人の生活は収入の差にかかわらず、驚くほど均質化している。
多摩川の河川敷をジョギングしているときに見かけるホームレス男は、近所のスーパーで普通の家庭の奥様方にまじって、彼女たちと同じ「本日特価」の鶏肉を買っていた。別の男は、疲れたお父さん方が飲むのと同じ栄養ドリンクの6本パックを買っていた。
2007年9月に多摩川が何十年ぶりかの洪水に見舞われたとき、頑丈に作ったブルーハウスのひとつが壊れずに土手まで流れ着いた。
中を覗いてみると、3畳ほどの広さで、想像したより小奇麗に整理され、手作りの棚にはステレオのラジカセと韓国の人気歌手・桂銀淑のテープがきちんと並べられていた。さらに驚かされたのは、最高級のものではないにしても、’MOET &CHANDON’ラベルのシャンパン・ボトルが口を開けずに置いてあったことだ。
「いったい、どんなヤツが棲んでいたんだ!」
居心地の良さそうな内部から想像するかぎり、社会のセイフティ・ネットから零れ落ち、かろうじて生きながらえている人間の棲み家ではない。
「ホームレス」とは経済的困窮生活の典型だろうが、中には、ボヘミアン的な、生きるスタイルとして選択した少数の変わり者もいるに違いない。
昨年(2008年)9月のリーマン・ブラザーズ破綻ショック以来の「百年に一度の経済危機」は、ホームレスの生活を直撃した。彼らの主たる収入源がアルミ缶の回収で、リーマン・ショック以降、アルミ相場が国際的に暴落したからだ。
コンビニやゴミ置き場をあさって、空き缶をかき集め、業者に持ち込む。だが、昨年夏に1kg当たり180円だった相場は下がり続け、今年2月には40円という底値に達した。この価格は、多摩川のホームレスから聞き出した数字で、地域によって多少異なる。集められたアルミ缶は回収業者に買い取られ、卸業者のもとへ運ばれる。日本アルミニウム協会のホームページに載っている「アルミニウム地金市況」の価格は、末端ホームレスの2~3倍だが、暴落は同じだ。
昨年の秋、回収業者と世間話をしていたら、価格の下落もさることながら世界のアルミの需要が激減して売れなくなったので、ホームレスの持ち込みは断っていると言っていた。彼らは国際的経済危機に直接曝され、暖冬とはいえ心が凍る冬を過ごしたはずだ。
東京のホームレスは2009年1月時点で、3,428人、1年前より368人減少した(厚生労働省の発表)。この数字をどう読むか。
河川敷の管理を業務としている国土交通省の河川事務所なるところが、きちんとした科学的動向調査を実施しているとは思わないが、ひとつの見方として、生活が苦しくなってホームレスをやっていけなくなり、生活保護を受けるようになったという減少理由をあげている。(ホームレスは生活保護者より経済レベルは上なのだ!)
この通りだとすると、未曾有の経済危機でホームレスを”脱落”したのは、前年比で10%以下ということになる。とは言え、この冬が苦しくなかったはずはない。
4月、桜の花も散って、このところ汗ばむ日もある。
ホームレスのジジイに声をかけてみた。2月にキロ40円だったアルミ缶が3月には45円、4月には60円、まだ上がりそうだと嬉しそうだった。国際経済はこんなところでも解読することができるのだ。日本経済新聞の展望が今後にやや明るさを取り戻してきたときと軌を一にする。
だが、ジジイは言った。「俺は去年、180円も経験しとる。まだまだ」。この欲張りめ!
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