イラン情勢が緊迫しているので、インターネットで「イラン」
日本で活動しているイラン人の若い女性タレント、サヘル・ローズの著書「戦場から女優へ」(文芸春秋)というのをみつけた。戦争で孤児になり、日本に来てからホームレス生活までしてタレントになったというので、ちょっと関心を持った。
本の価格は1300円、高くはないがタレント本にこんな金は払いたくない。で、幸運にもブックオフに800円の中古があったので買ってしまった。
読んでみると、若いのに様々な苦労をした人生はなかなか興味深い。ただ、テーマのわりに軽い内容で、彼女のミーハー的ファンなら十分堪能できそうだという程度のものだった。本人が本当に書いたのかゴーストライターが書いたのか、この手の本では当然なのかもしれないが、そんな説明はない。
それはそれでいいのだが、イランへの興味でこの本を読むと、肝心な点が、無視されているのか、ぼかされているのか、すべて欠落している。これは非常に気になる。
著書によれば、1985年、イラン西部、イラク国境に面したクルディスタン近くの町で貧しい家庭に生まれた。1989年2月、4歳のとき、イラク軍の攻撃で倒壊した建物の瓦礫の下から奇跡的に助けられた。
イラン・イラク戦争は1988年8月22日に停戦の合意に達したが、イランとイラクはその後も空爆を続け、その犠牲になったとしている。
意図的かどうかはわからないが、この決定的事件が起きた場所であり、故郷でもある地名を明らかにしていない。かなり不自然に思える。
ただ、イラン・イラク戦争が終わったあと、イラク軍が継続していた攻撃の対象は自国内とイラン国境近くの少数民族クルド人居住地域だった。クルド人は両国の国境山岳地帯の両側に住んでいる。
イランは戦争中、イラク国内のクルド人を軍事的に支援し撹乱に大いに利用した。民族自立のためにバグダッド政権と対立していたからだ。だが、停戦で支援を停止すると、イラクは後ろ盾を失ったクルド人を徹底的に叩いた。
サヘルの町がイラクの攻撃を受けたとすれば、クルド人地域である可能性が非常に高い。そして、彼女自身もクルド人という可能性もある。だが、彼女はイラン人というだけで、人種については何も語っていない。
イランは多民族国家だが、様々な社会的圧迫を受けてきたクルド人であるか否かは、個人の存在意義に関わる重要な問題だ。クルド人地域のクルド人なのか非クルド人なのか。普通のイラン人なら明確に表明するだろう。
彼女のホームページによると、人種に関しては、さらに混乱させられる。彼女の使える言語にクルド語はなく、日本語のほかに、「ペルシャ語、ダリー語、タジク語」と記されている。
ペルシャ語はイランの公用語、ダリー語はイランの隣国アフガニスタンの公用語、タジク語はアフガニスタンの主要民族のひとつタジク人の言語であり、またタジク人の国タジキスタンの公用語だ。
ただ、この3つの言語はペルシャ語を同じルーツとし、多少の違いはあるが互いの意思疎通は十分にできる関係だ。いわば、東京弁と栃木弁と青森弁の違い程度で、同じ言語の方言ともいえる。普通のイラン人なら、ダリー語、タジク語がわかっても、ペルシャ語以外の言語として、あえて言及はしないと思う。
それでは、サヘルはなぜ言及したのか。
彼女は、タジク系のアフガン人なのかもしれない。あるいは、彼女を瓦礫から救った現在の養母がそうなのか。イランには、かなりの数のアフガン人も住んでいる。
著書は、アフガニスタンとの関わりにまったく触れていない。これも訳がわからない。
サヘル・ローズとは、実にミステリアスな人物に思えてくる。
果たして、本当にミステリーがあるのか。あるいは、無能なゴーストライターの単なる欠陥原稿が、巧まずして作り出した謎なのか?
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