2010年4月8日木曜日

ツクシの再発見


 この春一番の発見は、ツクシの味だった。 サクラが咲くより前、冬の気配がやっと消えたころ、東京でも青くなってきた草むらからツクシが顔を出していた。 


 もくもくとツクシを摘んでいるオヤジに、食べ方をきいてみた。 「油で炒めて甘辛く味付けするとビールのつまみにいい。 詳しい作り方は女房にきかんとわからん」。 そばにいたオバサンが「あく抜きなんかしなくても食えるよ」と教えてくれた。


 「それならオレも」と、ジャケットの両のポケットがいっぱいになるくらい摘んで、うちに帰り、早速調理してみた。 かなりいいかげんな味付けだったが、うまくできた。 確かに、あのオヤジが言ったとおり、ビールのつまみに悪くなかった。 心が満たされた春の夕暮れ。


 味をしめ、翌日も取ってきて、またビールを飲んだ。


 サクラが散り始めた今では、もちろんツクシは消えている。 もう来年まで食べられないのかと思ったら、ツクシという植物が一体何なのか、「春の風物詩」という以外、まったく知らない自分に気が付いた。 惚れた女の素性がわからないようなものだ。


 そこで調べてみて驚いた。 ツクシは女に例えれば”毒婦”だったのだ。


 ツクシの正式名称はスギナ。 日本語では土筆だが、英語ではhorsetail、馬の尻尾だ。 多年生のシダ植物。 北半球の温帯に広く分布している。 ツクシとは、春になると地中から出てくる胞子茎のことで、頭の部分から胞子を飛ばし、そのあと枯れる。 根茎は地中に長く張り巡らされ、その節から、ツクシとは似ても似つかない栄養茎が出てくる。 緑色で細い茎、関節から輪状に細い葉を伸ばす。 丈は40センチ程度だが、形が杉の木のようにみえる。 スギナの名前の由来だ。


 ツクシは愛らしい外見とは裏腹に、その根茎はしつこく蔓延り、農業者には駆除しずらく憎々しげな雑草だ。 毒婦が表面には出さない素顔である。


 毒婦の毒婦たる所以はそれだけにとどまらない。 ツクシには本物の毒があるらしいのだ。


 詳しく説明しているのは、厚生労働省の「『健康食品』の安全性・有効性情報」だ。 国民の税金で集めた国民のための情報なのだから、国民が自由に利用できなければ意味がないと思われるが、なぜか、「無断利用禁止」になっている。 こんな馬鹿げた役人のたわ言は無視して、一部を引用してみよう。


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 ・経口摂取で長期摂取した場合、おそらく危険と思われる。短期の場合も危険性が示唆されている。

 ・スギナにはチアミナーゼ様活性があるため、経口摂取するとチアミン欠乏を引き起こすことがある。

 ・無機ケイ素を含むので、高用量のスギナを摂取すると、発熱や四肢の冷え、運動失調などのニコチン様中毒を起こすことがある。ニコチン過敏症の患者がスギナを摂取したところ、皮膚炎を発症したという報告がある。

 ・子供にとってはおそらく危険と思われる。茎を噛んだ小児でニコチン様の中毒作用がみられたという報告がある。

 ・妊娠中・授乳中の安全性については充分なデータがないため、摂取は避けたほうがよい。

 ・外用の副作用として脂漏性皮膚炎が知られている。

 ・スギナ茶粉末の摂取者で皮膚炎の報告がある。

 ・腎結石患者を対象にスギナを摂取させたところ、副作用として腹部膨満や排便回数の増加、悪心が認められたという報告がある。

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 地中のミネラルをたっぷり吸収したツクシには薬効があると言われるが、現代科学はそれを裏付ける材料をみつけていない。 ツクシを”毒”とみなしていると言っていい。


 食べ物でも人間でも毒は味に深みを与える。 とはいえ、来年も毒婦ツクシを口にするかどうか、心が揺らぐ。 

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