かつてのスキー場はスモーカー天国だった。 リフトを待っているあいだに一服、リフトに乗るとまた一服、吸殻は積もった雪の上に放り投げるだけ。 吹きさらしのスキー場でも火の付けやすいZIPPOのライターを雪中で取り出せば、仲間の前でちょっとはカッコをつけられたものだ。 だいたいマナーもいいかげんだった。 ゲレンデの隅では、くわえタバコで立ち小便も平気でやっていたんだから。
今ではスキー場も世間と同じで、禁煙が当たり前になっている。
過去10年近く、12月に初滑りをしている北海道・富良野スキー場に今年も行って、ひとつのことに気付いた。
このスキー場では、いつもスキー訓練をしている自衛隊員の集団といっしょになる。 今年も技術向上に懸命になっている彼らの姿があった。
昼食時に食堂の窓から、なにげなく外を眺めていたときのことだった。 食堂もゲレンデも禁煙のスキー場では、喫煙できるのは屋外の駐車スペースに面した場所だけだ。 吹雪であろうが喫煙者は他に選択はない。 そこに目を向けていると、たむろしているのは迷彩服の自衛隊員だけだったのだ。 無論、兵隊以外に民間人もいないわけではないが、自衛隊に占拠されているという状態であった。
これは非常に興味深い光景ではないか。
統計学的にはおそろしくいいかげんな推測だが、富良野スキー場の喫煙場所で観察するかぎり、自衛隊員の喫煙率は日本社会で頭抜けて高い。 スキー場のスキーヤーの数では民間人がほとんどなのに、喫煙場所では自衛隊員がほとんどなのだから。
なぜなのだろうか。 組織内の生活が強いストレスをもたらしているからだろうか。 単に、世間の動きに遅れ、いまだにタバコを吸うのがマッチョでかっこいいと信じているのだろうか。 もしかしたら、世間から隔絶した生活を送っている彼らは、マッチョだがタバコを吸わないランボーすら知らないのかもしれない。
昔の戦争では最前線の塹壕でも兵隊たちはタバコを吸った。 マッチの火を3秒以上付けていると敵に狙撃されると言われたくらいだから。
自衛隊が知らない砲弾飛び交う実戦の取材体験からすると、喫煙者は前線で緊張するとタバコを吸いたくなる。 それがわかっているからタバコを欠かさないように必ず荷物に入れる。 余計な手間がかかるのだ。 それに、いざというとき走って逃げると息がきれる。
富良野の自衛隊は、ゲレンデでの滑りは、ダサくてどん臭いが、旭川に本拠を置く自衛隊第2師団、自称「北鎮師団」という精鋭部隊なのだ。 第2戦車連隊、第3地対艦ミサイル連隊、第4特科群を基幹部隊とし、自衛隊の中で最新鋭の装備を誇っている。
この部隊ラインアップを見れば、日本防衛の最前線死守の重責を担っていることが一目瞭然であろう。 ミサイル連隊は敵艦からの攻撃を食い止め、特科群は敵の空挺部隊や特殊部隊など最精鋭による上陸に対応、戦車連隊は侵入した敵との地上戦を受け持つ。
北からの敵軍攻撃があれば、致死率の最も高いのが第2師団であろう。
おそらく、自衛隊や防衛庁(省)の最高幹部たちも、第2師団ならどこに出しても恥ずかしくないと思っているのだろう。 これまでの自衛隊海外派遣では、旭川の第2師団が必ず顔を出した。 カンボジア、モザンビーク、ルワンダ、東ティモール、そして2004年のイラク。
まあ、考えてみれば、彼らは本当に凄い。 安い給料で、1箱400円以上もするタバコをブカブカ吸って、戦場だろうが肺がんだろうが死ぬのは同じと居直っているみたいだ。 ほんの少し、自分たちの生き方をみつめてみてもいいんじゃないかという気もしないではないが。
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