ある新聞記者の友人からきいた話である。
春のよく晴れた日曜日、北関東のある町外れの里山をのんびりと一人で歩いていたとき、偶然、取材先の地方裁判所の職員グループと出会った。グループは、トップの所長以下10人余り。
友人は、メンバーのほとんどと顔見知りだった。互いに偶然を面白がり、ちょうど昼飯どきだったので、いっしょに弁当を開いた。
気の利いたのが一人いて、携帯コンロに鍋を載せ、甘酒を作った。あたりには甘ったるい匂いが広がり、みんなウットリしてきたときだった。一目置かれる紳士然とした裁判所長が、おっとりした口調で尋ねた。
「それは何ですか?」
一瞬、誰もがとまどい、顔を見合わせた。質問の意味がわからなかったのだ。
ちょっとの間を置いて、勇気ある一人が「これは甘酒というものです」と、尊敬すべき裁判所の長に、おずおずと説明した。
長年裁判官を務め、出世コースである地方裁判所長に就いた人物が、60年近い人生を生きてきて、たいていの日本人が、好き嫌いは別にして、知っていると思われる甘酒を知らなかったのだ。
このエピソードで裁判の怖さを知った。
耐えがたいほど世間の常識に疎い裁判官が実在するのだ。そういう裁判官に、日本の司法制度は死刑判決を下す権限を与えている。ゾッとするではないか。
裁判員制度の導入は悪くなかったと思う。
それでも、被告席に立つ機会があったら、裁判官に訊いてみよう。 「甘酒を知っているかい?」
春のよく晴れた日曜日、北関東のある町外れの里山をのんびりと一人で歩いていたとき、偶然、取材先の地方裁判所の職員グループと出会った。グループは、トップの所長以下10人余り。
友人は、メンバーのほとんどと顔見知りだった。互いに偶然を面白がり、ちょうど昼飯どきだったので、いっしょに弁当を開いた。
気の利いたのが一人いて、携帯コンロに鍋を載せ、甘酒を作った。あたりには甘ったるい匂いが広がり、みんなウットリしてきたときだった。一目置かれる紳士然とした裁判所長が、おっとりした口調で尋ねた。
「それは何ですか?」
一瞬、誰もがとまどい、顔を見合わせた。質問の意味がわからなかったのだ。
ちょっとの間を置いて、勇気ある一人が「これは甘酒というものです」と、尊敬すべき裁判所の長に、おずおずと説明した。
長年裁判官を務め、出世コースである地方裁判所長に就いた人物が、60年近い人生を生きてきて、たいていの日本人が、好き嫌いは別にして、知っていると思われる甘酒を知らなかったのだ。
このエピソードで裁判の怖さを知った。
耐えがたいほど世間の常識に疎い裁判官が実在するのだ。そういう裁判官に、日本の司法制度は死刑判決を下す権限を与えている。ゾッとするではないか。
裁判員制度の導入は悪くなかったと思う。
それでも、被告席に立つ機会があったら、裁判官に訊いてみよう。 「甘酒を知っているかい?」
0 件のコメント:
コメントを投稿