2009年5月29日金曜日

裁判員制度は悪くない


 ある新聞記者の友人からきいた話である。

 春のよく晴れた日曜日、北関東のある町外れの里山をのんびりと一人で歩いていたとき、偶然、取材先の地方裁判所の職員グループと出会った。グループは、トップの所長以下10人余り。

 友人は、メンバーのほとんどと顔見知りだった。互いに偶然を面白がり、ちょうど昼飯どきだったので、いっしょに弁当を開いた。

 気の利いたのが一人いて、携帯コンロに鍋を載せ、甘酒を作った。あたりには甘ったるい匂いが広がり、みんなウットリしてきたときだった。一目置かれる紳士然とした裁判所長が、おっとりした口調で尋ねた。

 「それは何ですか?」

 一瞬、誰もがとまどい、顔を見合わせた。質問の意味がわからなかったのだ。

 ちょっとの間を置いて、勇気ある一人が「これは甘酒というものです」と、尊敬すべき裁判所の長に、おずおずと説明した。

 長年裁判官を務め、出世コースである地方裁判所長に就いた人物が、60年近い人生を生きてきて、たいていの日本人が、好き嫌いは別にして、知っていると思われる甘酒を知らなかったのだ。

 このエピソードで裁判の怖さを知った。

 耐えがたいほど世間の常識に疎い裁判官が実在するのだ。そういう裁判官に、日本の司法制度は死刑判決を下す権限を与えている。ゾッとするではないか。

 裁判員制度の導入は悪くなかったと思う。

 それでも、被告席に立つ機会があったら、裁判官に訊いてみよう。 「甘酒を知っているかい?」

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