エジプトの混乱が深まるにつれ注目度が上がっている「ムスリム同砲団」とは、いったい、どんな組織なのだろうか。 非合法とはいえ、実質的に、もっとも組織化された最大野党とあれば、同胞団抜きに、今後のシナリオは描けない。
米国やイスラエルの不安は、彼らはイスラム原理主義者であり、政権を握ればエジプトが反米・反イスラエル・反西欧の一大国家になる可能性があるという恐れに集約できよう。 1979年のイラン革命は広範囲な国民の反パーレビ感情の高まりが原動力になったが、卓抜した宗教政治哲学者ホメイニの支持者たちがその果実を奪い、「イスラム革命」へと変質させた。 親米から反米へと180度転換したイラン革命の悪夢をエジプトでもう一度見たくはないのだ。
だが、こうしたイランとエジプトの比較は、あまりに単純すぎる。
オサマ・ビンラーディンのアル・カーイダと密接につながるエジプトの過激テロ組織は、穏健化したムスリム同砲団から離反していった。 根は同じでも、同胞団は今、アル・カーイダ主義を全面否定する。 彼らの活動は非常に現実的だ。 手段はテロではなく、社会奉仕活動が主体、ムバラク政権下で貧困にあえぐ大衆は、何もしてくれない国家より同砲団を頼りにする。 例えば、地震などの災害時にいち早く救援チームを組織するのも同胞団である。
顎鬚をたくわえたイスラム指導者のイメージで同胞団幹部に会うと面食らう。 つるりとした顔で高級スーツを着こなしているのもいれば、流暢な英語でジョークを飛ばすのもいる。
カイロで、1928年に同胞団を創設したハサン・アルバンナの孫に会ったことがある。 弁護士で、現在の主要メンバーでもある。 みかけは、どう見てもビジネスマン。 しばらく話してから、顔を寄せてきた。 「日本から資金と技術を援助してもらえないだろうか? 組織内のコミュニケーション・システムを整備したいんだ」。 生き馬の目を抜く商売人の面構えだった。
現在の同砲団の雰囲気を知るには、同砲団の公式ウェブサイトhttp://www.ikhwanweb.con/(英語版)を見るのがいいかもしれない。 洗練された作りで、外部世界に開かれた組織であると感じさせる。
米国オバマ政権は非常に慎重に対応しているようにみえる。 イランで、米国が全面的に支援していたパーレビ王政が倒れたあと、イスラム勢力との回路がなかったために、ホメイニ政権が強烈な反米へと邁進するのをとどめることができなかった。 オバマ政権がその二の舞を回避しようとしているのは明らかだ。
だが、おそらく米国は同胞団と接触はできても、まだ信頼できるパイプは確立していないはずだ。 それでも、オバマがムバラクを見限る態度をとりつつあるのは、なんらかの手ごたえを感じたからに違いない。
ハサン・アルバンナが同砲団を創設した1928年は、イスラム世界の盟主オスマン帝国を崩壊させた第1次世界大戦から10年後のことだった。 この間の大きな歴史的出来事は、1924年、消滅したオスマン帝国のあとに西欧型近代国家・トルコ共和国が生まれたことだ。 軍事と政治の天才ケマル・アタチュルクは、伝統的イスラム教徒が生きるよすがとしていたイスラムの価値を根本的に否定し、西欧の価値基準を導入して近代化を推進した。
トルコ人ばかりでなく中東全体のイスラム教徒に衝撃的な変革であった。 アルバンナは、西欧化が近代化への道とするアタチュルクの考えに強い違和感を覚えた。 われわれには、われわれの道があるのではないか、という疑問が、あらためてイスラムに目を向けさせた。 同胞団運動は、こうして生まれた。 西欧化が唯一の価値だった植民地時代に、価値の多様性を主張した運動ともいえる。
今も、その価値観は様々なイスラム運動の根本にある。 ムバラク後のエジプトにいかなる政権が誕生しようと、オバマの米国がイランの失敗を繰り返さないためには、米国の伝統である横暴・独断・押し付けを棚上げし、これまで最も苦手としていた価値の多様性を受け入れる謙虚さが、たとえ上っ面だけにしても当面は必要だと思う。
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