アラブ世界の歴史が確実に動き出した。 もはや止めることはできない。 チュニジアの地方都市で政府の腐敗に抗議して焼身自殺した26歳の失業青年ムハンマド・ブアジジは、巨大地震の震源地となった。 独裁政権の抑圧下で人々のあいだに充満していた不平不満が大津波となり、たちまちチュニジアの独裁者ベンアリを飲み込んだ。 そして、その大波はアラブの大国エジプトをも襲った。
貧しくても従順なエジプト人が街に繰り出し、独裁大統領ホスニ・ムバラクに「出て行け」と叫ぶ姿は感動的な驚きだ。 ピラミッド見物に来た日本人観光客が、カイロ国際空港で飛ばなくなった帰りの飛行機をぼんやりと手持ち無沙汰に待っているのは信じられない光景だ。 彼らは歴史の目撃者になれる幸運に遭遇したのだ。 歩いてでもカイロ市街に戻ってエジプト人たちとエールをかわせばいい。 一生の思い出になるだろう。 帰国などせずに、独裁者の最期を見届けようではないか。
きょう(1月31日)のCNNには、イスラエルの元カイロ駐在大使がエジプト通として登場していた。 彼は、現在の抗議行動でエジプトが民主化され、民主的な選挙が実施されるとすれば、それがエジプトで最初で最後の民主的選挙になるだろうと警告していた。
選挙に勝つのは、イスラエルの存在を受け入れようとしないイスラム勢力で、彼らが政権を取れば二度と選挙などしないという論理だ。 イスラエルは、敵対するアラブ諸国の中で曲がりなりにも自国と国交を持ち、イスラム勢力を抑圧する独裁エジプトの延命を願っているのだ。
中東や外交の専門家たちは、中東で最大の親米国エジプトの独裁が崩壊すれば、米国にとって大きな損失となり、米国が主導してきた中東秩序の再構築がせまられると”解説”する。
だが今は、したり顔の解説や分析に耳を傾けるときではない。 そういう意見には、アラブ人たちの血や汗の臭いが欠如している。
腐りかけた偽善の秩序が崩れつつある。 きっと大きな混乱が起きるだろう。 だが、われわれは、それを受け入れなければならない。 なぜなら、アラブ大衆の犠牲で成り立っていた世界的搾取システムから流れ出てくる甘い汁を、われわれも貪ってきたからだ。