イギリス映画「砂漠でサーモン・フィッシング」。 この馬鹿げた題名に引かれて、つい見にいってしまった。
ストーリーも題名そのもの。 中東の砂漠で鮭を釣りたいというイエメンの首長ムハメッドのとんでもない夢を実現しようとするイギリス人学者と、このプロジェクトを持ち込んだ美人コンサルタントの恋、このプロジェクトを利用して、イギリス・アラブ関係改善で点数を稼ごうとする首相府の女広報官。 一見馬鹿げた計画をめぐってストーリーは展開する。
基本線は恋物語。 だが、イギリス人好みの、こってりと政治風刺を効かせた映画でもある。 どちらも楽しめる。 かなり質の高い映画だ。
だが、中東世界を多少覗いた者として、もっと期待したかったのは「砂漠」そのものの描写だった。
まずは、「砂漠」という言葉は、「沙漠」にしたかった。 文字通り、砂だけの”砂漠”もあるが、英語で「desert」と呼ばれる土地の多くは、”土漠”でもある。 「水の少ない広大な土地」。 だから「沙漠」のほうがしっくりする。
そこは、短い春には、水の少ない土地でも育つ、けなげな植物でうっすらと緑色に染まる。 様々な生き物もいる。 駱駝で旅する人々には、駱駝の尻尾の毛で作った蝿追いが欠かせない。 沙漠には蝿がうるさいほどいる。 そして、人間たちは、そこで飲み、踊り、生活する。 彼らには心が最も落ち着く故郷なのだ。 だから、アラブの石油成金たちも、酒瓶を持って沙漠へピクニックに行く。 禁酒国とされるサウジアラビアの沙漠でも、スコッチ・ウイスキーの空き瓶がごろごろ転がっている。
そして、この映画の原題「Salmon Fishing in the Yemen」。 「イエメン」を「砂漠」と意訳したのは悪くはない。 が、中東アラブ世界で最も美しいイエメンの沙漠と山々が連なる風景を知っていれば、「砂漠」と意訳するには、かなり躊躇しただろう。 イエメンのままにしてほしかった。 実際、本物のイエメンの風景は、モロッコで撮影したという”贋物”のイエメンより、はるかに美しい。
イエメンという国を知っている外国人は少ない。 だが、数少ないイエメンを知っている外国人の多くがイエメンにぞっこん惚れ込んでいる。 あの美しい景色、そして、乾燥した土地に棲む人々のしっとりとした湿っぽい人情。 準主人公のムハメッドに、その片鱗が見えた。 それを、映画の中で、もっと見たかった。
だが、そんなことを思うマイノリティのために、営利目的の映画は作れない。 この映画がすごいとしたら、”砂漠のサーモン・フィッシング”というテーマで、その不可能性を描き、しかも営利を得てしまったことだ。
1 件のコメント:
原作は英国のベストセラー、脚本は「スラムドッグ$ミリオネア」のサイモン・ビューフォイ、監督は「……」のラッセル・ハルストレムと、制作の背景が必ずついてまわる映画である。
題名を「イエメンで鮭釣りを」とせず「砂漠で…」としたのが成功している。何となく引かれるし、各紙などの評も悪くない。
しかし、タイトルにも成っている事業の真意を、大富豪が地元の人々に伝えないのはなぜか?英政府や過激派の関与も飛躍しすぎてという感じ。見終わった後の満足感に欠け、中途半端だ。とは言え、こんな展開が英国風味と思えば、結構楽しめたりして。でも、1800円なら見ないかも。
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