イスラム教の戒律が厳しく施行されているサウジアラビアには、酒屋もナイトクラブもない。 とはいえ、世界に酒を飲まない民族はない。 だから、飲酒厳禁だというのに、首都リヤド近郊の沙漠に行くとウイスキーの空き瓶があちこちに転がっている。 サウジ人たちは、どこかで手に入れた酒を宗教警察の目の届かない沙漠に持っていって、密やかなピクニックを楽しむのだ。
それでも飽き足らないか、要領が悪くて酒を入手できなかった男たちはどうするかというと、週末(木曜日の夜)にクルマを飛ばして隣りのバーレーンへ行って過ごす。
ペルシャ湾の島バーレーンとは、1986年に完成した全長25kmの海上の橋キング・ファハド・コーズウェイでつながっている。 木曜夜のバーレーン側イミグレーションは、サウジ男たちが運転するクルマでいつもごった返している。
サウジに隣接するペルシャ湾岸の国々は、なぜかサウジとは反対に、どこも宗教的には比較的おおらかだ。 酒は飲めるし、ナイトライフも充実している。 なかでも、バーレーンは、アラブの尺度では酒池肉林の極みかもしれない。
とはいえ、東南アジアとは比べようもないが、レストランでは、アラブ人が昼間からフィリピン人のウエイトレスを膝の上に座らせ、おおっぴらに酒を飲んでいる。 サウジ男たちは、これが楽しみで週末の長いドライブを厭わないのだ。
今、この週末の光景はどうなってしまったのだろうか。 中東に広がった民衆蜂起はバーレーンをも揺るがせている。 臆病な日本外務省のバーレーン渡航注意喚起はまともに受け取れないにしても、サウジ人だって反王政デモが拡大するバーレーンでの夜遊びは躊躇しているに違いない。
コーズウェイの週末混雑は続いているのだろうか、消えてしまったのだろうか。 サウジ人たちがバーレーン通いを控えているとすると、彼らの欲求不満はどこへ向かうのだろうか。
まさか、その程度の不満が反体制運動に火を付けることはないだろうが、コーズウェイが社会的ガス抜きの役割を多少とも担っていたのも確かだ。
BBCもCNNもアルジャジーラもNHKも、コーズウェイの現状を伝えていない。