2017年11月5日日曜日

何を意味する「トランプ報道」

 


 米国大統領ドナルド・トランプの来日が目前の11月2日付け読売新聞朝刊は、「トランプ主義」と題する企画記事を掲載し、かなり唐突にトランプを礼賛した。

 記事の内容は、昨年の大統領選挙でトランプが70%以上も得票した特異な州ワイオミングで拾ったトランプへの期待の声を集めたものだ。 日本の新聞報道の基準からすれば、この記事だけでは中立性を欠き、露骨な”偏向報道”ととらえられかねない。 さすがに、日本を代表する新聞だけに、そんなボロは出さない。 別の目立たない記事で、トランプに失望した声も紹介している。 だが、明らかに、とってつけた”中立性”だ。

 翌3日掲載の「トランプ主義」は、野党・民主党内部の分裂ぶりに焦点を当て、トランプへの抵抗勢力としての弱さを強調している。 この報道の仕方は、日本国内で安倍政権を持ち上げる一方、野党の体たらくを強調する得意の手法と同じようにみえる。

 まるで、日本も含め世界中で評判の悪いトランプへの支援キャンペーンを始めたかのようだと思ったら、2日に来日していた大統領補佐官を務める娘のイヴァンカ・トランプが、3日に都内で開いた国際女性会議「WAW!」で講演し、この会議であいさつした安倍晋三は、おそろしく気前のいい約束をした。 なんと5000万ドル、日本円で57億円をイヴァンカが提唱した女性起業家支援の基金に拠出すると表明したのだ。

 これは、いったい何を意味するのか。 米国ではイヴァンカといえば世間知らずの金持ちで庶民感覚に疎いとみられている。 そういう女の基金を支援すること自体が米国では不可思議な行為と受け取られるかもしれない。 しかし、イヴァンカが大統領に最も近い人物であることに目を向ければ、父親トランプへの安倍のご機嫌取り以外の狙いがあろうはずはない。

 安倍はこれからも評判の悪いトランプに擦り寄っていくのだろう。 当面の狙いが何かはわからないが、57億円はある種の賄賂の性格も持とう。

 トランプは日本でも一般的に好かれてはいない。 安倍は無論そのことを知っている。 だが、トランプに擦り寄りたい。 そのためには日本でのトランプの印象を改善したい。 そういうことなら、自分の後援会機関紙・読売新聞を使わない手はない。 おそらく、こうして読売の「トランプ支援キャンペーン」は始まったのだろう。

 それにしても、安倍はなぜトランプにべたべたとくっつこうとするのだろうか。 伝統的な日米関係とは異質な何かを感じる。 北朝鮮情勢、中国の脅威といった安全保障面では米国と密接な関係を維持したいだろう。 だが、トランプによる米国のTPP、パリ協定からの離脱は日本の国益とは相容れない。 利害が相矛盾し日米関係が複雑化する中で、露骨なトランプ接近が目指す先はまだ見えてこない。

 いくらなんでも、安倍の大好きな「お友だち」というレベルのものではないだろう。