2014年7月24日木曜日

消費期限切れナゲットの味


 経済発展の著しい最近のベトナムでは、日本料理レストランや日本食材を売っているスーパーは当たり前の存在らしい。 だが、ベトナムがよたよたと経済的離陸を開始したばかりの1990年ごろ、バンコクからハノイに行くときは、日本食を渇望している在住の知り合いに日本食の土産を必ず持っていったものだ。

 土産と言ってもスーパーのレジ袋ひとつ分程度だったが、その当時、バンコクのドンムアン空港のハノイ行きフライトのチェックイン・カウンターで並んでいるときに見た日本人外交官の荷物は凄い大きさだった。 日本食の詰まった大きな段ボール箱がカートに山積みになっていた。 ハノイからバンコクへの”買い出し出張”の帰りだという。

 こんなところで我々の税金が使われているのかと多少ムカッとしたが、不便な土地で頑張っているのだから許せるか、という気もしないではなかった。 それより、こんな大量の食料を傷まないうちに食い尽くせるのだろうか、と余計な心配をしてしまった。

 それから何年もたって、エジプトのカイロに住んでいたとき、在留日本人が集中しているザマレク地区にある小さなスーパーによく買い物に行った。 当時のカイロで日本食の材料など、ほとんど売っていなかったが、この店にはあった。 あったと言っても、古びた包装で賞味期限切れの即席ラーメンといったものばかりだったが、それでも、日本の味に飢えた人たちには嬉しい店だった。

 いったい、この日本食はどこから仕入れてくるのだろうか? あるとき、店員になにげなく訊いてみて、なるほど、と納得した。 出どころは日本大使館だった。 転勤でカイロを離れる大使館員が残った日本食を売り払っていくのだという。 (この店と大使館供給ルートが今も存在するかどうか知らない)

 つまり、かつてバンコク・ドンムアン空港で感じた疑問は正しかった。 日本人外交官たちは、食べきれないほどの日本食を常備しているのだ。 

 我々民間人は彼らのおこぼれにあずかっていたようだ。 だが、おかげで、胃袋が鍛えられたことには感謝しなければいけない。 あの店で買った賞味期限切れの食品で腹を壊したことなど一度もなかった。 いや、鍛えられたのではなく、賞味期限切れの食品を食べても健康への影響はないと、身をもって学ぶことができたと言うべきだろう。

 「賞味期限」を気にしなくなったのは、あの教訓以来だ。 日本のスーパーでは、賞味期限切れ間近で割引になっているものをわざわざ選ぶようになった。

 というわけで、「賞味期限」は完全に無視して生活しているが、「消費期限」切れは怖いと思っていた。 「賞味期限」は、美味しさが維持できる期限で、期限が過ぎても味は実際にはほとんど変わらず、食べても問題はない。 だが「消費期限」は、お役所によれば、5日間程度過ぎると急速に品質が悪化する、つまり腐ってしまう食品に表示される。 だから、「消費期限」は無視するわけにはいかない。 とはいえ、自分自身の人体実験では、刺身や生肉は冷蔵庫に保存しておけば、「消費期限」から数日たっても問題はない。 誰にでも勧められるわけではないが。

 だが、「消費期限」に関しても、もっと大胆に、もっといい加減に対応してもいいのかもしれないという気がしてきた。

 例の、中国の食品加工会社が、日本の「消費期限」にあたる「品質保持期限」を過ぎたチキンナゲット用鶏肉を日本マクドナルド、ファミリーマートに納入していたことが暴露された騒ぎのせいだ。

 報道によれば、厚生労働省の調べで、この会社から1年間に約6000トンの鶏肉製品が日本に輸入されたが、これまで健康被害の報告はない。 

 これは何を意味するのか。 6000トンのすべてが「消費期限」切れではなかったろうが、多少混ざっていたとすれば、多少なら問題はないということだろう。 マクドナルドやファミリーマートで売っているジャンクフードなど食わない方がいいに決まっている。 それとこれとは別問題だが、この騒ぎは、「消費期限」の定義を問い直しているのではないか。 実際、「消費期限」切れのチキンナゲットを食べて、なんともなかった人がたくさんいるのだから。

 もしかしたら、中国の悪徳企業が、食料品価格の抑制、あるいは世界の食糧不足解消のヒントを与えてくれたのかもしれない。

 個人の立場からすると、煎じ詰めれば、自分の健康維持基準を権力に頼りすぎるな、ということだと思う。 

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