2012年12月31日月曜日

君は塩分摂取を控えているか



 塩分を摂りすぎると血圧が上がる。 だから高血圧予防のためには塩分摂取を控え目にしなければいけない。 中高年世代の人々は、うんざりするほど忠告される。 刷り込み効果のせいか、気が付けばラーメンのスープは半分残すようになっている。

 ところで、専門家たちが、塩分摂取量と高血圧について語るとき、金科玉条のごとく引き合いに出すのが、南米の未開部族ヤノマモ(ヤノマミ)族だ。 食塩をほとんど摂らないので高血圧がない部族だという。

 そこで、出典が明らかにされていないのでウエブで探索してみると、どうやら原典はINTERSALTという国際研究団体の現地調査のようだ。

 以下が、その内容。
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 [1989年文献] ナトリウム摂取量が極端に低いヤノマミ族では,高血圧が見られなかった
Mancilha-Carvalho JJ, et al. Blood pressure and electrolyte excretion in the Yanomamo Indians, an isolated population. J Hum Hypertens. 1989; 3: 309-14.

 ブラジルとベネズエラの国境近くに住むヤノマミ族は,世界中でもっとも文化変容の波を受けていない先住民族である。 狩猟と焼畑農業中心の生活をしており,栽培した穀物や,採取した果物・昆虫などを食べる。 主食はバナナ,キャッサバ。食塩や精製した砂糖はほとんど使っておらず,アルコールや牛乳,その他の乳製品も摂取しない。

 26万 km2の範囲に200の集落が存在し,それぞれ40~250人が暮らしている。 このうち1986年のINTERSALT研究に参加したのは,政府保健機関から30 kmほどの位置にある3つの集落。 20~59歳の206例のうち,妊娠中の6例,24時間蓄尿量が明らかに不足していた5例を除いた195例について検討を行った。

 今回の調査を行うため,まず政府保健機関の近くの町まで調査機器が空輸された。 調査隊はそこから調査機器や生活用品などをすべて持ち,ジャングルの中を8時間歩いて集落に向かった。

 各集落には5日ずつ滞在し,血圧測定,24時間蓄尿および質問票の記入を行った。 質問には通訳を介した。 また,ヤノマミ族は自分の年齢を知らない。そのため,年齢については体格や外見,子供の数や年齢,通訳の個人的な認識をもとに推定した。

結 果
 男性は女性より身長・体重ともにやや大きく,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)も女性より高い傾向が見られた。

 平均血圧,および観察された最低値および最高値は以下のとおり。
   SBP   96.0 mmHg (78.0~128.0 mmHg)
   DBP   60.6 mmHg (37.0~86.0 mmHg)

 平均尿中ナトリウム排泄は0.9 mmol(24時間)で,これはINTERSALT参加国のなかでも圧倒的に低い値。 最低値は0.04 mmol,最高値は26.7 mmolだった。  84.1%(164例)が1 mmol以下の値を示し,5 mmol以上だったのは9例のみ(これは調査隊の食料を口にしたためではないかとされている)。  このように値が極端に低いため,塩分と血圧の相関については正確な解析を行うことができなかった。

 平均尿中カリウム排泄は63.3 mmol(24時間)。 尿中カリウム排泄と女性のDBPは,有意な逆相関を示した。

 年齢と血圧に正の相関は見られなかった。 女性のSBPは年齢と有意な逆相関を示した。男性のBMIは,血圧と有意な相関を示した。 年齢と血圧に正の相関が見られない理由として,これまでに慢性病や栄養不良の可能性が挙げられてきたが,ヤノマミ族は非常に重い荷物を背負って何時間もジャングルを歩くなど強靭な体力を持っており,今回の調査でも栄養不良の身体所見はまったく見られなかった。

 このほかにも,ヤノマミ族の生活には高血圧を抑制する多くの要素(BMIが低い,肥満がほとんどない,アルコールを摂取しない,脂質をほとんど摂取しない,繊維質を多く摂取する,運動量が多いなど)が見られた。

 以上のように,塩分の摂取量が非常に少ないヤノマミ族では高血圧がまったくなく,加齢にともなう血圧の上昇も見られなかった。
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 <INTERSALT>というのは、どういう団体かというと、世界初の食塩と血圧に関する国際研究組織で、1985年に研究を開始した。 現在、32か国の52集団の住民を調査対象にしている。 

 INTERSALT(INTERnational study of SALT and blood pressure) Studyは,世界32か国の52集団について,24時間蓄尿により尿中ナトリウム・カリウム排泄と血圧との関連について検討した国際共同研究。WHOや米国国立心肺血液研究所(NHLBI)のサポートを受けて行われた。食塩をまったくとらないことで知られるブラジルのヤノマミ族も,調査の対象に含まれている。

 食塩と血圧の関係についてはこれまでにも多くの調査研究が行われてきたが,調査手法にばらつきがあり,集団間で結果を比較したり,国際的な傾向をつかんだりすることが難しかった。

 そこでINTERSALT研究では,質の高いデータを収集するために,高度に標準化された調査手法が用いられた。例えば調査マニュアルや質問票は統一され,翻訳の正確性もチェックされた。検査機器は,血圧計や蓄尿器から聴診器にいたるまで,世界中で同一のものが使用された。さらには,収集した24時間蓄尿のサンプルは世界各地からベルギーのルーベンにあるセント・ラファエル大学に運ばれ,生化学的な分析はすべてそこで行われた。

 その結果,食塩摂取量の多い集団では年齢とともに血圧が上昇する度合いが大きいこと,また,個人間の検討で,ナトリウム摂取量は血圧と正の関連,カリウムは負の関連,アルコールは正の関連があることが明らかになった。               
(Intersalt web page より)
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 それにしても、 ヤノマミ族というのは、実に興味深い。 秘境ルポの候補に加えておこう。 以下が、ヤノマイ族の概要だ。

 ブラジルとベネズエラの国境付近、ネグロ川の左岸支流とオリノコ川上流部に住んでいる。 人口は1990年時点でブラジルに1万人、ベネズエラに1万5000人の計2万5000人ほど、現在合わせて約2万8000人といわれる。 言語の違いと居住地に基づいて4つの下位集団に分けられ、南西部を占めるグループはヤノマメYanomam、南東部はヤノマムYanomam、北西部はサネマSanma、北東部はヤナムYanamとよばれる。 南アメリカに残った文化変容の度合いが少ない最後の大きな先住民集団である。 言語帰属について、チブチャ語族であるとか、カリブ語族に関係があるとかさまざまな説があるが、はっきりしない。

 彼らの住居は、シャボノと呼ばれる巨大な木と藁葺きの家である。 シャボノは円形で、中央の広場をぐるっと囲む形になっており、多くの家族がその中でそれぞれのスペースを割り当てられていっしょに暮らしている。

 衣服はほとんど着ていない(初潮を経た女性は陰部を露わにすることを禁じられ、ロインクロスを付けて陰部を隠す)。

 主な食物は、動物の肉、魚、昆虫、キャッサバなど。その特徴として、調味料としての塩が存在せず、極端に塩分が少ないことがあげられる。 彼らはもっとも低血圧な部族として有名(最高血圧100mmHg前後、最低血圧60mmHg)だが、それはこのことと密接な関係があるものと思われる。 狩猟採集や漁撈だけでなく、料理用バナナやキャッサバなどの焼畑農耕もおこなっている。

 ヤノマミ族は現在のところ、民族内部での戦争状態が断続的に続いている。 彼らの社会は100以上の部族、氏族に村ごとに別れて暮らしているが、他の村との間の同盟は安定することはまれで、同盟が破棄され戦争が勃発することが絶えない。 このような状況におかれた人間社会の常として、ヤノマミ族では男性優位がより強調される傾向がある。 肉体的な喧嘩を頻繁に行い、いったん始まると周囲の人間は止めたりせず、どちらかが戦意を喪失するまで戦わせるといったマッチョな気風にもそれが現れている。

 また、近年、ヤノマミ族の居住地域で金が発見され、鉱夫の流入は疾病、アルコール中毒、暴力をもたらした。 ヤノマミ族の文化は厳しく危険にさらされ、第一世界からの寄付金によるブラジルとベネズエラの国立公園サービスによって保護されており、ナイフや服などが時折支給される。

 都市住民と比べて種々の病気に対する抵抗力が弱い。 2009年11月、ベネズエラ領内で新型インフルエンザのため8人のヤノマミ族の死者が出たことが伝えられている[6]。

 女子は平均14歳で妊娠・出産する。出産は森の中で行われ、へその緒がついた状態(=精霊)のまま返すか、人間の子供として育てるかの選択を迫られる。 精霊のまま返すときは、へその緒がついた状態でバナナの葉にくるみ、白アリのアリ塚に放り込む。 その後、白アリが食べつくすのを見計らい、そのアリ塚を焼いて精霊になったことを神に報告する。  また、寿命や病気などで民族が亡くなった場合も精霊に戻すため、同じことが行われる。

 いわゆる価値相対主義をとらずに、先進国(近代社会)の観点から記述すれば、ヤノマミ族は技術的に人工妊娠中絶ができないため、資源的・社会的に親にとってその存在が「不必要」である子供は、森の中で白蟻に食べさせる形での嬰児殺しによって殺害される。 嬰児殺しの権利は形式上は母親にあるが、男尊女卑である以上、実際は子供の遺伝的父親や、母親の父親・男性庇護者の意思、村の意思が反映する。 ヤノマミの間では、これを「子供を精霊にする」と表現する。 これは近代社会における「中絶」と、不必要な子供を始末する点では一致するが、超自然的な位置づけがされている点が異なる。

 ヤノマミ族を三十年にわたって調査を続けたアメリカの人類学者ナポレオン・シャグノン(共同研究者はジェームズ・ニール )によるヤノマミ族の血液研究に関して倫理的な論争が発生した。

 1993年、ブラジル・ロライマ州のヤノマミ集落で16人が金採掘業者に虐殺された。

 (以上、Wikipedia より)

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 血圧を下げるということは、どうやら現代文明以前の時代の生活に近付けるということらしい。 だが、殺虫剤に対する耐性を身につけて死ななくなった蚊や虱が存在するように、人間も、いかなる美食を続けても健康を維持できる新種を生むことはないのだろうか。

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