2013年5月7日火曜日

イスタンブールより愛をこめて



 いわゆる知識人が事情通と称してテレビに登場し、日本で注目されている社会問題などについてコメントする。 医療や老人介護、あるいは交通渋滞、役人の汚職等々、テーマは様々。 よくある発言は、”進んだ外国”との比較だ。 「外国と比べると日本は遅れてますねえ」といった類のコメント。 しかし、その「外国」がどこを指すのか具体的には言及しない。 なぜなら、彼らは、そんなことは自明の理で、いちいち説明する必要はないと思っているからだ。 

 彼らの言う「外国」は、欧米諸国だけなのだ。 だが、ヨーロッパでも貧しいラトビアとかルーマニアとかマケドニアなどという国は念頭にない。 それどころか、アジアのアフガニスタン、バングラデシュ、ラオス、あるいは、アフリカのザンビア、ソマリア、チャドなどといった世界の最貧国の存在などは、完全に無視している。 こういう概念は明らかに、国家に対する差別だ。 脱亜入欧の近代化でアジア諸国を無視してダイニッポン支配を確立しようとした日本でも、こういう概念の持ち主は少しずつ減りつつある。 やがては絶滅危惧種になるであろう。 だが、いまだに、かなりの個体数が棲息しているのも事実だ。

 最近、その一人が俄然注目を集めた。 東京都知事・猪瀬直樹。 2020年夏季オリンピックに立候補した東京のライバル都市イスタンブールについて、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、「イスラム諸国は互いに争いばかりしている」「トルコの人たちが長生きしたければ、日本のような文化を作るべきだ」と発言した。 ライバルへの批判というより、もはや侮辱だ。 国際オリンピック委員会は、他の立候補都市の批判を禁じる行動規範に違反するとして問題視した。

 報道によると、猪瀬はさる1月に東京オリンピック開催計画を記者発表した席でも、「途上国は先進国のモデルを追いかけていればいい」と、トルコを侮蔑したと受け取られかねない発言をしていた。 猪瀬という人物には、先進国の「上から目線」で途上国を見下す本性がある。 

 今回の猪瀬発言騒ぎを、単なる「舌禍事件」ととらえてはいけない。 世界の人々が集う平和の祭典にまったくそぐわない差別主義者がオリンピックを開催しようとしていることが暴露されたのだ。 本来なら、東京は候補地という地位を剥奪されるべきであろう。

 それにしても、「イスタンブール開催」を一貫して支持してきたThe Yesterday's Paper にとっては、青天の霹靂と言える猪瀬発言だった。 これで東京開催の可能性はこれまで以上に萎み、イスタンブールの地歩がさらに固まったからだ。

 猪瀬発言後にトルコを訪問した日本の首相・安部は、トルコの首相エルドアンに、侮辱発言を取り繕うような言い訳がましいことをしゃべった。 エルドアンは、いつもの生真面目な表情を崩さず、内心ほくそえんでいた。 「ありがとう、これで2020年はイスタンブールで決まりだ」。 
 

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