2016年10月19日水曜日

モスルの”斜塔”は残っているか

モスルの”斜塔”(撮影日時不明)

 イラク軍が、過激狂信集団ISISが中心拠点にしているイラク北部の都市モスルの本格的な奪還作戦を進めている。 報道されている軍事情勢によれば、イラク軍はかなり優勢で、奪還に成功する可能性が高まっている。

 モスルが解放されたら、ISISに破壊されずに今でも無事かどうか、是非見たいものがある。 アッバース朝末期の12世紀に建造されたモスク「アル・ヌーリ」のミナレット(尖塔)だ。 愛称がある。 「アル・ハドバ」という。 意味は「せむし」。

 「せむし」と呼ばれるのは、真っすぐであるべき塔が途中で曲がり、ピサの斜塔のように傾いているからだ。

 サダム・フセインを打倒した湾岸戦争の5年後、1995年にモスルに行って、「アル・ハドバ」を見た。 高さ52m。 無愛想な建築物だが、その傾きぶりが面白くて見飽きることがなかった。 

 サダム政権にたいする国連経済制裁で政府財政は逼迫し、当時、イラクの歴史遺跡は維持管理が危うい状態だった。 「アル・ハドバ」の管理人も、塔内部の階段が傷んでいるが修繕できないと話していたのを覚えている。

 イラクは世界的歴史遺産の宝庫だ。 メソポタミア文明以来、シュメール、アッカド、バビロンなど様々な古代文明が花開いた。 湾岸戦争後の混乱の中、多くの遺物が盗まれ、密売され、イスラエルやヨーロッパへ渡ったという。

 ISISが様々な遺跡を「反イスラム」だとして破壊する以前に、イラクの歴史遺産は既に惨憺たる状態になっていた。

 「アル・ハドバ」は何百年にもわたって傾いているのに倒れない。 その科学的説明はまだついていないらしい。 しぶとい「せむし」なのだ。 だから、いまだに、無事立っている(建っている)予感がする。

 

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